― 宇土高校科学部地学班の近況を教えてください。
近年は「不知火」現象の研究をメインに活動しています。不知火現象とは、熊本県不知火海において、気象や地形などさまざまな要因により光が横に連なって見える「蜃気楼」の一種です。生徒たちは観測も自分たちで行い、2024年9月には不知火の撮影に成功しました。公的に残記録としては1988年に不知火町(現・宇城市)で撮影された写真が最後といわれており、実に36年ぶりに撮影できたことになります。
2025年度は、不知火の研究で全国高等学校総合文化祭に出場し、2023年以来2度目の文化庁長官賞(全国2位)を受賞することができました。また、2024年に参加した日本物理学会Jr.セッションでは最優秀賞を受賞しました。
現在、部員数は1年生1名、2年生4名、3年生4名の計9名です。活動時間は平日の放課後が主ですが、休日の早朝や深夜に観測に行くこともあります。
― 今後、力を入れていきたいことは?
不知火の観測です。
これまでこれまでの研究成果として、不知火の正体は、不知火海で夜間に漁を行う漁船の漁火(いさりび)の光が横方向に広がって見える側方蜃気楼と考えられます。しかし近年、夜間の漁はほぼ行われておらず、不知火を見ることはできなくなりました。そこで2024年9月、実験のために不知火海に夜間に漁船を出してもらったところ、研究を始めて7年目、23回目の夜間観測で初めて不知火の観測に成功しました。動画撮影にも成功し、これは世界初の快挙と言えます。不知火を含め「側方蜃気楼」の存在に否定的な研究者もいますが、動画では2つの漁火が同時に側方蜃気楼となっており、存在の決定的証拠となりました。
その経験を踏まえ、2025年9月にも観測実験を実施しました。前年に比べ漁船の数を増やすなど工夫を重ねたのですが、風が強いなど気象条件に恵まれず、残念ながら観測することはできませんでした。そのため今年こそは観測できるように、生徒たちと一緒に分析や準備、工夫に力を注いでいるところです。
“分からない”を楽しみ、挑む姿勢を大切にしよう
| ↑ 地学班の部員さんとの観測の様子 | ― 宇土高校科学部地学班での活動を通して、生徒たちに学んでほしいことは? 今の世の中、ネットで検索すると当たり前のように答えが返ってきます。でも、それはすでに分かっている答えを探してきて表示しているだけです。実は『不知火』に限らず、身近なことで分かっていないことというのは意外と多い。教科書に書いてあることが変わる可能性だってあります。実際は分からないことだらけで、「誰も分かっていないことが世の中にはたくさんある」ということを知ってほしいですね。そして「分からないことは、悪いことではなく面白いこと」「分からないからこそ、もっと先にも進んでいける」ということを生徒たちには感じてほしい。それは理科の世界だけでなく、社会に出たらそういう「分からない」ことだらけ。科学部地学班での研究を通して、分からないことの面白さに気付く感性と、それに挑む態度を身につけ、大学で磨きをかけてほしいと思います。 |
大学生時代の恩師からの学びが今も礎に
| ↑ 大学時代の写真。地学研究室の恩師、 田中先生と地層調査に行った際の一枚。 | ― 学生時代の、今を活きる「学び」を教えてください。 私はもともと小学校の教員を目指していました。しかし、大学時代のある出来事がきっかけで、高校の地学教諭へと目標が変わりました。 それは大学2年生のときのことです。熊本大学の先輩でもある御船町恐竜博物館の池上直樹先生が、小学生向けのミュージアムキャンプを実施するにあたり大学生のボランティアを募集されたので、私も参加することにしました。キャンプ中に、参加した子どもたちと恐竜の話をする時間があったのですが、私は恐竜に詳しくないので何も話せず、子どもたちに学びを与えられなかったことがショックで…。そして、その夜の反省会で、池上先生から「理科の先生になりたいの?理科の何が面白いの?」と聞かれたのですが、きちんと答えられませんでした。地層とか火山岩とか、勉強して覚えはしましたが、実際に見たことはなく、面白いとも思っていなかったのです。「そんな状態で先生になっても子どもたちに理科の面白さを伝えることなんてできない。そんな先生になってはいけない」と思って、それから御船恐竜博物館でお手伝いを始めました。発掘作業や化石クリーニングの手伝いをする中で、理科の面白さを学び直すことができたのです。 それから、大学の地学研究室の田中均先生からは、「自分の目で見て物事を考える」ことの大切さを学びました。私は大学4年になって、やっと一人でフィールド調査ができるようになりましたが、まだ自分で見て自分で考えるには実力不足だと感じ、大学院に進学してさらに勉強することにしました。2人の恩師との出会いから「何事も面白いと思うこと」「自分の目で見て研究すること」の大切さを学び、今の道へ進むことができました。この学びを生徒たちにも伝えられたらいいなと思っています。 |
― 座右の銘は?
「石の上にも三年」。大学時代、最初の頃は「地学って面白くない」と思っていました。でも、少しずつ面白さが分かってきて。知らないから面白くないと思っていただけで、知るほどに面白さがたくさん見えてきました。最初に直感で「嫌だな」と思っても、続けて見ていれば面白くなるかもしれません。物事の判断は簡単にはいかない。「石の上にも三年」の気持ちで、しばらく向き合って見ることも大切です。
時間をかけて取り組んだことが自信へとつながる
大学生の頃、「理科の面白さって何?」と聞かれて答えられない自分がいました。しかし、今は地学の分野でたくさんのことを知り、それが自信にもつながっています。腰を据えて、時間をかけて取り組んだからこそ自信を持てるようになったのです。
自信を持つことはとても大切です。でも、情報があふれている今の時代、他人の良いところばかりが見え、それと自分を比べて自信を無くしてしまうという人もいるのではないでしょうか。そんなときは、何でもいいので、時間をかけて、やりたいことに取り組んでみてください。やりたいことを長く続けていれば、きっと自信を持てるようになります。長く続けている人には敵いません。
やりたいことが見つからないという人は、人と出会うことに積極的になってみてはどうでしょう。生身の人と会って、じっくり話しをしてみてください。心が揺さぶられたり、考えさせられたりすることがきっとあると思います。そして、その人たちからの励ましや応援が、あなたの自信につながるかもしれません。
(インタビュー/令和7年12月12日)






















