王座獲得はみんなの
応援のおかげ ―熊本県内のジム所属選手として、初の世界王座獲得おめでとうございます。まずは福原選手の近況を教えて下さい。 福原 2月の暫定王座決定戦(熊本県では33年ぶりの世界タイトルマッチ)に判定勝ちして、つい先日、正規王者昇格の知らせを頂きました。今はアルバイトをしながら、後日に義務付けられている初防衛戦に備えているところです。 正直言って、途中で「もうダメかな」と思うぐらいの厳しい試合でした。でも親や友人、母校の先生方、その他たくさんの人の応援がある以上、諦めるわけにはいかない。また、被災した熊本に明るいニュースを届けたい。そんな気持ちで必死に粘り、運の良さもあって本当に、みんなのおかげで獲得したタイトルだと思っています。 相手はかなりのハードパンチャーで僕は左目を負傷、今もスパーリングは出来ない状態です。でも試合が終わる度に自分の課題が明確になるので、大変ですが勉強になりますね。今回「強いパンチを打つべきところで打てない」「横に動くべき時に脚がついていかない」などの課題が見つかったので、ウエイトトレーニングや走り込みでパワーや脚力を鍛えています。 とにかく続けていくうちに ボクシングが面白くなった ―ボクシングを始めたきっかけを教えて下さい。 福原 テレビやマンガの影響で、格闘技への憧れは子供の頃からありました。でも何をしても中途半端で、特に打ち込んだことはなかったんです。高校入学後はちょっとやんちゃをして停学…学校を辞めかねない事態にもなってしまいました。 そんな時、担任の先生が「打ち込めるものを」と奔走してくれたおかげで始めることになった、それがボクシングなんです。でもせっかく入ったボクシング部も1ヶ月で辞めてしまって、その時にようやく、これじゃダメだと真剣に考えるようになりました。自分はずっとこのまま、全てに中途半端で生きていくんだろうか。そんな未練のようなものを引きずって高1の終わり頃、今の『本田フィットネスボクシングジム』に入会しました。 謙遜ではなく、入会当初の僕は期待されてなかったんですよ。才能では敵わない人がたくさんいて、悔しかったけどまた途中で止めるのだけはイヤで、ハードな練習に耐えていきました。会費を稼ぐためにバイトもやっていたので、「周りは遊んでいるのに、どうして自分はこんな日々を…」そう思うこともしょっちゅうでしたが、とにかく続けていくうちに、少しずつ面白くなっていった感じです。 そして両親に(不安定な道と)反対されながらも、高校卒業直前にプロテスト合格。専門学校時代には西日本新人王になり、東西決定戦で負けてから、かえってのめり込んでいきました。 |
続けることで成長を感じる
―福原選手にとっての、ボクシングの魅力とは。
福原 東西決定戦がプロ初黒星だったんですが、自分にとっての魅力の1つは「負けて学ぶこと」も多い点でしょうか。それで止めてしまう人も多い一方、僕の場合は敗北後も次を目指して続けていくうちに、自分が成長していくのを感じる。そう言えば海外で試合した時、ギリギリで勝利した後に相手選手の親御さんが、僕を祝福に来てくれたこともあります。プロらしい「皆さんを沸かせる良い試合」をすれば、敵も味方も関係ない、そんな時がある。これも魅力だと思います。
そうは言ってもやっぱり、勝利に勝る魅力はないんですけど(笑)。試合中、会長にいつも言われるんです、「ここで勝つと負けるとではこの先、大違いだぞ」…。先日の世界戦でもまさにそうでした、どんなに苦しくても勝てば全てが報われる、そしてやっぱり、次の試合のためにもっと頑張ろうと思う。そんな風に、続けるほどに自分を鍛えてくれるのが僕にとってのボクシングです。そして普段あまり感情を表に出さない僕が、自分の全てを出し切れる場でもあります。この道へ導いてくれた高校時代の恩師には本当に感謝ですね、先生は今も応援してくれています。
「努力に勝る天才なし」は
実感を伴う言葉
―学生時代の印象的な「学び」を教えて下さい。
福原 先に述べたように、高校入学ごろまでは熱中出来るものが特にないタイプでした。ちょうど反抗期で、親との関係も良くなかったですね。それがボクシングに打ち込むようになって、周りの選手や指導者の方々に揉まれるうちに、少しずつ余裕が出てきた気がします。
そして「我慢すること」を覚えるようになりました。専門学校時代は「朝から学校・夜までボクシングの練習・深夜までバイト」…の繰り返しでしたが、結果、プロボクサー活動と平行して自動車整備士免許も取得しました。今もそうですが実家暮らしでありながらバイトを続けたのも、ボクシングを言いわけに親の負担を増やしたくない、甘えたくないという思いからです。
―座右の銘を教えて下さい。
福原 「努力に勝る天才なし」ですかね。ありふれていますが、僕には実感を伴う言葉です。 やっぱり成功している選手はみんな、もの凄い練習量をこなしていますし。また所属ジムの会長を始めいろんな人が言うんですけど、最初からセンスを感じる人が意外に早く止めてしまい、地味でもコツコツ努力し続ける人が、大きな成果を出したりする。結果って確かに、努力を続けてこそ出せるものなんだと思います。 別の道へ進んだとしても 役立つような成長を育もう ―若い読者へメッセージをお願いします。 福原 何度も言っていますが…まずは続けてみる、我慢してみるって大事なことじゃないかと思います。もちろんどうしても結果が出ないとか、「自分には合わないのかな?」と思えば止めてしまっても良いんですが、それでもしばらくは努力を続けてみる。そうしたら別の道に進んでも、きっとそこで役立つような成長が育まれると思うんです。 そして同時に、「楽しみ」を見つけて欲しいですね。苦しい、辛いばかりじゃ続かないので、我慢の中にも喜びを見つけて、楽しく努力を続けて欲しい。そう言っている僕も、世界チャンピオンとしてはまだまだこれからです。まずは当面の初防衛戦に向けて、楽しみながら努力を続けようと思います。
Writer T.Iwanaga
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