「豊かな熊本県づくり」に
一層、寄与する新聞を ―熊本日日新聞社の近況を教えて下さい。 河村 熊本県全域に根差す新聞社として、現在29万部の日刊紙を発行。今年4月1日で創立75周年を迎え、休刊日を除き一度も途切れさせたことはありません。それもひとえに県民の皆様から信頼され、支え続けて頂いたおかげと思っております。 また近況としては、やはり昨年の熊本地震を抜きに語ることは出来ません。震災自体は嫌なことですが、一方で多くの県民が力を合わせ、熊本の未来のために1つになるきっかけになったとも感じています。 私たちもあの時は停電のため、新聞の印刷を他社にお願いする事態になりかけました。しかしなんとか自力復旧、発行。そして多くの人が大変な状況にある中、新聞は皆様のお役に立つと実感し、改めて共有するに相応しい情報を提供していかねばならないものだと考えました。今後一層、目標とする「豊かな熊本県づくり」に寄与する新聞を作り続けていきたいと、思いを新たにしています。 誠実かつ謙虚に 複眼的な視点を持って ―仕事をする上で大切にしていることは。 河村 私は20年以上記者を務め、事件などの取材中には怖い場面に遭うこともありました。しかし新聞社という組織を始め様々な人に支えられたおかげで、危機的な状況も乗り越えられたと思っています。震災時にも感じたことですが、そんな「人と人とのつながり」を大切にすることは仕事の上でも、非常に重要だと思います。 それを前提にしますと、まず「真摯誠実」であること。虚勢を張らず自分を大きく見せることなく、ありのままの自分で向き合わなくては、人に信頼などされませんから。そして「謙虚」であること。知ったかぶりをせず、人に間違いを指摘されたら素直に認め、人から学び自分を成長させる姿勢を持つことです。 また、私が若い頃に「母親が実の子を無残に殺す」という事件がありましたが、その時に感じた義憤が記者を志望する動機の1つとなりました。そういった社会のひずみに対する正義感、人の痛みに対する理解や共感といったものは、今後も大切にしていきたいところです。 さらに、これは記者時代に警察の方から言われたのですが、「犯人を追求する検事のような視点を持つだけでは足りない」と。同時に弁護士のように相反する視点、複眼的な視点を持たねばならない。そうやって物ごとを突き放し、客観的に見る習慣をつけることは、どんな仕事をする上でも大切だと思います。 |
自分の不足を知る
―熊本の現状と未来に思うことは。
河村 震災はありましたが、それでもなお熊本は住みやすいところだと思っています。よく言われることですが、水や食べ物が美味しい。自然豊かで農業はもちろん、他の産業においても基盤が整っている。そして人と人との絆が強く、住民に自立する気風がある。
ですから首都圏や福岡と比べて劣る点を挙げるばかりではなく、今後はそんな「熊本ならではの強み」を伸ばしていくことを、目指すべきではないでしょうか。弊社としても、客観報道や批判も大切ですがそれに加えて、熊本のより良い未来に貢献出来る、希望につながるような情報の提供を一層、心がけたいところです。
―学生時代の印象的な「学び」を教えて下さい。
河村 済々黌では弓道部に所属し、教室で見なくても道場では見るというぐらい(笑)、練習を頑張りました。インターハイにも出場しそれが自慢でもありますが、学びというとやはりそこでの友人関係、人とのつながりの中で得たものが多かったですね。 例えば入学当初、私は「自分が一番しっかりしている」などと思っていたんです。ですが弓道部で同期だった村田信一さん(前熊本県副知事、現熊本空港ビルディング株式会社社長)なんか、私よりよほどしっかりしている。また、同級だった姜尚中さん(政治学者、東京大学名誉教授)は、当時から非常に思索的な人でした。そういった友人・知人の、自分にない良さに目を向けることで己の不足を知り、その後の成長につなげられたかなと思っています。 また大学は東京に行き、興味のある講演に参加したり、他学部でも気になる先生の講義には出席したりと、積極的に視野を広げようと努めました。もちろん、人とのつながりも大きく広がりました。しかもこの頃の友人は各地に散らばっておりますので、日本全国に渡る人脈として、今に活きております。 人とのつながりを積極的に 広げ、質を高めよう ―座右の銘を教えて下さい。 河村 「自我作古(じがさっこ)」です。我(われ)より古(いにしえ)を作(な)す、つまり「前例にとらわれず、常識、手本になることを自分で作り出す」という意味ですね。 実は大学の卒業式で、学長告示の中に使われた言葉なんです。自分をしっかりと見つめ、自分で道を切り拓いていく。そして、その後ろ姿を若い人たちにも見て頂けたら…そんな思いも込められるかと思います。私ももう60歳を超えておりますから、良き見本であらねばという意味で今後一層、深みを持ってくる言葉ですね。 |
河村 昔から「若いものは頼りにならん」などとよく言います。ですが私は震災時、率先してボランティア活動に従事したりする若者たちを見て、そんなことはないと感じました。
また将棋に米長邦雄さんという、若手から非常に慕われる名人がおります。その言葉に、「(目上の者は)自慢するな、説教するな、金を出せ」というのがありまして…私もそれに習い、説教や批判ばかりではなく、若者の良い点に目を向け、その成長を助けていけたらと思っているんです。
その上でエールを送らせてもらえるのなら…繰り返しになりますがやはり、「人とのつながり」を大切にして欲しい、この点は強調したいところです。それも受け身ではなく、自ら積極的に関係を広げ、その質を高めてもらいたい。これは必ず、誰にとっても重要な財産になると思います。
また、自分を信じて目標を持ち、その実現に向かって努力を惜しむな、と。卑下することなく目標を高く持って、粘り強く頑張り続けて頂きたいですね。やはり努力しないと、人は衰えていく一方ですから。つい説教臭くなってしまいましたが(笑)、経験に即したアドバイスとして受け取ってもらえましたら幸いです。