T1 park 記者
そのような練習方針を取り入れていらっしゃる理由とは。 一村監督 先のことを考えた時にどちらがいいかということです。一から十まで細かく指導したほうが手っ取り早いかもしれませんが、そうやってお膳立てしてくれる人がいなくなった時に1人でちゃんとやっていけるかというとそうではないと思うんですよ。たとえば私が所用で体育館から離れることがあったとして、誰も見てないところで子供たちが何をやっているかが大事なんです。その時にさぼったり、違うことをやっていたりしたら意味がない。私は体育館の隅に座ってニコニコしながら見ていて、生徒たちが自主的に活気ある充実した練習ができるというのが理想ですね。 |
T1 park 記者
生徒が力をより発揮するために気をつけていることは。 一村監督 基準のひとつとしては本人が楽しめているかどうか。例えば私が与えたメニューを苦しそうに練習している生徒がいたとしたら、それは自分でできるようになりたいという気持ちよりも指導者に言われたからやらねばならないという義務感が先に立ってしまっている。それでは上達しないし、個人的にも好きではないですね。 卒業後も体操を続けるならば大学ではそんな指導はしてくれないので、体操の上手い下手は別にして心の持ちようとして自分でやれる選手でないと厳しいなと思います。私が現役時代に全国から集った強豪校出身の学生と練習してみて感じたことですが、実績があることと自立していることとは必ずしもイコールではないようです。 T1 park 記者 そういう部分は競技人生のみならずその後の人生でも同様ですね。 一村監督 大学や社会に出てからも自分で考え行動できる人は成長できるのではないでしょうか。あとは勇気を持って自分で決断することも大事だと思っているのでそういう部分も学んでいってほしいですね。 |
T1 park 記者
生徒に任せる上では目標設定など意識付けも大事になります。 一村監督 何のために体操をするのか、その練習をするのかを意識することは大切です。それから原因分析も大事。なぜできないか、どうすればできるかを考えること。「言う」のは簡単ですが「やる」のは難しいのでどうやったらできるかということは一緒に考えます。 T1 park 記者 体操は言葉で説明するのが難しそうですね。 一村監督 万人に共通することが少ないのでそういう意味での難しさはあります。でも成功した時になぜ自分ができたのかをはっきりさせることは実は非常に大事です。自分の感覚を明確に言語化する。「リラックスしていた」と抽象的でなく「小指の力を抜いた」のように具体的にすることが重要です。そうすると覚えた技が狂った時でも修正がしやすくなるので、呪文のように呟いたり、ホワイトボードに書き込んだりして覚えていきます。 |
T1 park 記者
体操以外で大事にしていることはありますか。 一村監督 心と身体はつながっていると思うので、身なりや言動については結構うるさいほうだと思います。突き詰めていくと最後は身なりや挨拶や礼儀作法に行き着く。そういう当たり前のことがきちんとできていると人の話も素直に聞くことができるし、さらに自分を磨いていくことができる。流行やファッションよりももっと大事にしなければいけない部分があって、一流の人ほどそこで成果を求めるというか。自分が現役の時はそこに行き着いていなかったので生徒には期待も込めて行ってほしいなと思っています。 T1 park 記者 青春時代に遊びたいのを我慢して頑張っている生徒には学付で体操をしてよかったと思ってほしいですね。 |
一村監督
卒業後は大学や専門学校に進学を希望する子が多いのですが、その場合に部活の練習で勉強が間に合わなくて浪人をしなければいけなくなったりするとやっぱり責任を感じますよね。卒業した子供達はあの時があったから今がありますとかその時の経験で精神的に強くなりましたとか言ってくれるんですけど本当にそれがいいことなのかなと常にジレンマも抱えていて。ですから生徒には「来るもの拒まず、去る者追わず」というスタンスで接しています。ある程度強いることも大切かもしれませんが、彼らももう15歳ですからね。自分達で考えて選択するということに責任を持たせてもいいかなと。シャツを入れろとか挨拶はしろとかそういうことには口すっぱく言いますが、本当に考え抜いて辞めますと行ってきた子にはその意志を尊重したいと思っています。逆に戻りたいという子もいるのでその場合には「おかえり」と迎えています。 |
T1 park 記者
技術指導以外の部分も大事にされていると。 一村監督 単なる技術向上を請け負うコーチではないということです。もし私がスポーツクラブのコーチであれば目的・目標が違うので今のような指導はしないと思います。あくまでも高校の部活動ですので、生徒たちが自主性を持って取り組むことに重点を置いています。 体操の上達には基本オタクにならないとだめだと思っていて、生徒達には研究熱心であれと言っています。冬季オリンピックを見ていても、フィギュアスケートでは3回転ジャンプにも色々な飛び方がありますよね。アクセルやルッツ、フリップ、サルコウなど一般の人は違いがわからなくても、体操選手はそういうことをオタク的な視点を持って知ろうとすることが大事だと思います。 |
T1 park 記者
学生生活と社会に出てからのギャップで悩む人も多いと聞きます。 一村監督 大人同士の会話では「就職活動や離職率に現れている」なんて言う人もいたりして大体そういう内容になってきます。ただそれはあくまで大人の考えで、子供の事を考えてみると本人は何もそんなこと少しも考えていなくて単純に教えられていないだけだと思うんですよ。 叱られ方が下手なのもそういう経験を積んでいないから素直にすみませんという気持ちにならない。頭の中で分かっていないわけじゃないのですが、まず叱られたことに対する反感が先に来る。たとえば遅刻した時に今の教育の現場では頭ごなしに怒るのではなく理由を聞かなくてはいけないのですが、社会に出て時間の約束を破ったら大変です。それなのに学校ではそうではないというのがはたしてどうなんだろうと思います。もちろん正当な理由がある場合もあるので様子を見て、それに気付いてフォローしてあげるのが私達の仕事です。それを見抜けないようだと教師失格ですから。 |