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子供達が集中して取り組めるよう工夫している点はありますか。 田原春監督 特にこれというものはありませんが、プレーに集中を欠いている時にはきちんと指導します。ミスが出るのは当然ですが、個人の能力に合わせてできることとできないことがあり、そのできることをやらなかったりすると厳しく指導します。 T1 park 記者 練習中の声掛け(その1本で勝負が分かれる。しっかり決めていこう)にも現れていました。 田原春監督 練習時間には限りがあり、シュートを打てる回数も多くありません。だから1本1本を集中してどう決めていくか、キーパーであればどう防ぐかが大事です。本当はその駆け引きの部分も楽しんでもらえたら嬉しいんですけどね。 練習試合をした場合には必ずチームの課題が見えてくるのでそれを日々の練習の中で克服できるようメニューを工夫しています。私は課題解決の糸口となる答えを持っていますが、安易に教えてしまうと力がつかないので質問形式でヒントを与えながら解決へと導くようにしています。試合では局面々々を自分たちで考え、臨機応変に動かなければいけません。生徒にはコートの中で考える力をつけてほしい。もちろん考える土台ができていない場合は別です。高校からハンドボールを始める生徒も多いので、そういう子達に対してはまず答えを与え、選択させる。そして土台ができてくると次のステップとして良い選択をしているかの確認作業に移ります。目標としては3年生の総体までには自分で判断できる力を身につけたいですね。 |
T1 park 記者 指導する上で大事にしていることはなんですか。 田原春監督 子供達によく言うのは気が利く人間になりなさいということ。つまり「気づく」力を身につけることです。そして気づきを行動に移せるかどうか。例えばゴミが落ちているとして、それに気づき、拾い、捨てるまでをできる人間になってほしい。それができる人間は社会に出ても出世するんじゃないかな。笑い。 人が見てない時にどれだけ行動できるかも大事です。トイレのスリッパが乱れていたら自分が使ったものじゃなくても並べる。これは、他者に手を差し伸べるカトリックの精神、当校の方針でもあります。今年の高校総体は優勝したことも嬉しかったのですが、一番嬉しかったのは最後の講評でハンドボール協会の方が「前日の試合で体育館のトイレのスリッパを並べている高校の選手がいました」と言われたことです。高校名はおっしゃいませんでしたが、それを聞いた時私はすぐにうちの生徒だと分かりました。 T1 park 記者 普段から気づき、行動に移すまでを徹底しているのですね。 田原春監督 生徒からすると面倒くさいと感じるかもしれません。でもひとのスリッパを並べることで次の人は履きやすいし、面倒くさいことをきちんとやっていくことで心が鍛えられます。その強い心は勝負の緊迫した場面で必ず生きてきます。 中には最初からできる子もいますが、できていなければ強制。「ゴミが落ちていれば拾おう、スリッパが乱れていれば並べよう」という具合ですね。最近では上の子たちが下の子たちに教えてくれるようになり、やるべきことをやっていこうと部内でいい流れができ始めています。 T1 park 記者 一見、ハンドボールに関係ないようにも思えますが。 田原春監督 ハンドボールに限らず、長い目で見た場合でも大事なことです。例えば卒業して就職したら学歴と仕事はあまり関係ないですよね。仕事のスキルが同じ場合どこで差がつくかというとやはり人間性の部分。 もう引退した生徒ですが、ある時「スリッパ並べやってきてよかったです」と言ってくれました。これまでは相手が強いから勝てないとか人対自分という考え方をしていたけど、そうではなくて自分対自分の考え方を学ばせてもらった、今までは逃げていたけど精神が強くなりましたということです。心を強くするために色んなことをしてきましたが、それを言ってもらった時に私も「あぁ、やってきてよかったな」と思いました。 |
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ハンドボールを通して生徒に伝えたいことは。 田原春監督 シュートを決めたらパスをくれた人のおかげ、ディフェンスをしてくれた人のおかげということに気づいてほしいし、プレーや勝敗に一喜一憂しながら社会に出てからも同様に必ず誰かサポーターがいるということを学んでもらいたいなと思います。ハンドボールとハンドボール部を通して今後の人生の礎となるものを通して培ってほしいですね。 T1 park 記者 生徒に対する思いを教えてください。 田原春監督 現役の頃は厳しく育てられましたが、相手(先生)が一生懸命向き合ってくれるから自分も本気で立ち向かわなければいけないということを学びました。今、私も生徒に対して同じ気持ちでいます。せっかく縁あってつながりができたので、人生を懸けて多少の犠牲を払ってでも何か伝えていかないといけないそしてそれはまた彼らが次の世代に伝えてくれると信じています。 |
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これまでのハンドボール人生で挫折した経験はありますか。 田原春監督 練習がきつくて辞めたいと思ったことはあります。しかし、本当にハンドボールを続けたくないと思ったのは大学4年生になる少し前。新チームのキャプテンになってすぐに肩を壊してしまったんです。手術をすると1年以上のリハビリが必要だと言われ、手術は受けないで左利きになろうと練習していたのですが中々うまくいかず。ボールも50メートル、60メートルと投げれていたのが、20メートル位しか飛ばなくなって。そのように自分がいいプレーができていなくても後輩やチームに対しては言わないといけない時がある。それが1番辛かったですね。本当に苦しくて辞めたいと思いました。 T1 park 記者 今振り返ると諦めなくてよかったという気持ちはありますか。 田原春監督 もちろんです。何事も諦めてしまうと先につながらなかったり、壁を乗り越える力が得られなくなったりします。諦めなければそこから何か得られるものが必ずあります。たとえ報われなくても無駄な努力なんてないじゃないですか。結果はともかく過程の中で苦しみ、もがいたことはその先の人生に生かされていると思えば続けてよかったなと思います。 T1 park 記者 生徒から辞めたいと相談をうけることはありましたか。 田原春監督 ありますよ。勉強についていけないからとか理由はさまざま。そこで必ず聞くことは「部活があるから勉強できないのか」ということ。目標のためにもっと勉強を頑張りたいということであれば、学生の本分は勉強なので個人的には辞めてもいいと思うんです。遊びたいからとかであらば論外です。勉強のほかにやりたいこと、それがハンドボールであればとことんやってほしい。 大人になったら仕事と家庭のバランスをうまくとっていかないといけません。仕事ばかりしていると家庭がうまくいかないし、逆であれば仕事に支障が出る。このふたつがうまくいっている前提でさらに自分の趣味も入ってきます。私は土日にほとんど家にいれない分、毎日子供と一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりします。時間はひとつしかないのでうまくバランスをとってやっていかないといけません。高校生の時に勉強と部活を両立させようと頑張ることでそうしたバランス感覚を学んでいけると思います。 |
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熊本の若者に応援メッセージをお願いします。 田原春監督 子供達を見ていると勉強でもスポーツでも自分の実力はこれぐらいだろうと線引しているように感じます。その子の可能性って本当はまだまだあるんですよ。その可能性を潰してしまっているのはその子自身。失敗しないように、無難にと損得勘定も強いように思います。もっと自分に自信と夢をもってもらいたい。そして目標に到達できそうか日々省みること。人生はその繰り返しだと思うんです。 イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんという掃除の神様としてもよく知られる方の本を読んだのですが、その中で凡事徹底という言葉が出てきます。この考えにすごく共感しましたし、ほかにも相手が喜ぶようなことをしなさいという教えがあってこれは当校の精神にもつながると思うんです。高校生ですから大それたことをする必要はないと思うし、それよりもスリッパ並べやゴミ拾いなどちょっとした意識付けでできることを実践してほしい。そうした当たり前の事を積み重ねていって素晴らしい人生を手に入れてほしいですね。 |