「阿蘇くまもと臨空キャンパス」が開校
―東海大学の近況は。
熊本地震で阿蘇校舎の一部が使用できなくなり、新たに建設を進めてきた「阿蘇くまもと臨空キャンパス(以下、臨空キャンパス)」がこの春にようやく完成しました。地震から7年が経過し、その間、学生の皆さんには、迷惑をかけてきました。
東海大学の創立者松前重義博士は、熊本の嘉島町出身で、熊本への思い入れが強くありました。実学尊重のもと、農場・牧場を併設した一体型のキャンパスとして1980年、阿蘇の地に農学部を開設しました。私も1期生としてここを卒業しました。
熊本地震後は熊本キャンパスにて経営学部、基盤工学部、農学部の3学部で教育研究活動を行ってまいりました。松前博士は創立当初から「文理融合」の教育を提唱しており、その原点を踏襲する意味でも、2年前に東海大学全学で改組を実施し、経営学部と基盤工学部を統合して「文理融合学部」を設置し、学科名称を「経営学科」「地域社会学科」「人間情報工学科」に改編しました。経営学科では「企業経営」「スポーツビジネス」「アグリビジネス」が広く学べます。地域社会学科では「心理・広報メディア」や「地域観光」について学びを深めることができます。人間情報工学科では「知能情報」「人間環境」「医療工学」について実習授業を通じて学びます。
農学部は、主に1年次を熊本キャンパス、2年次以降は主に臨空キャンパスを利用します。「食」とそれにかかわる「生命」「環境」「社会」をキーワードに、実験・実習を通じて動植物に触れる機会を多く設けた学びを構築しています。教育・研究エリアと、実習エリアを一体型にしている大学は全国でも珍しく、座学で得た知識を実習で確認しながら、より理解を深められる良い環境があります。
また現在、熊本キャンパスと臨空キャンパスを合わせると約2千人の学生が学んでおり、学生主体のプロジェクト活動が活発に行われています。例えば地域貢献を目的とした「阿蘇援農コミュニティープロジェクト」では、農家のお手伝いを行ったり、「阿蘇は箱舟プロジェクト」では絶滅危惧種の保全活動も実施しています。
熊本県は全国でも有数の農業県です。県内で唯一の農学部として、地域の産業に貢献できるような大学になることを目標にしています。それも踏まえて、7月には産学連携センターの設置準備室を立ち上げました。
文理融合学部と農学部が力を合わせることで、社会に貢献できる様々な研究が可能になるだろうと思っています。地域貢献活動が社会に見えるような大学にしていきたい。そして、何よりも学生が地域社会とつながりを持つことで、自分自身が将来、社会でどのような役割を担っていきたいかを考えてもらいたいと思っています。
空港に近い立地を生かし、臨空キャンパスを、アジアのゲートウェイにしていきたいと考えています。今年月2日には、当キャンパスで国際会議であるアジア農業シンポジウムを開催する予定です。日本全国や海外から色々な知見を持った方々が集まります。
学生には国際社会を意識してもらいながら、熊本の地で学び、世界で通用する力を身につけてもらいたい。そうした学びを提供していきたいと思います。本学は世界20カ国の教育機関と連携していますので、ぜひ留学なども経験してもらいたいですね。
私も大学1年次の時、ハワイ大学に語学留学をしました。恐らく、それに行かなければ世界に目を向けることはなかったと思います。学生時代の経験は人生において非常に大きいものです。
私は小学5年生の頃から、農場主になりたいと思っていて、目標がはっきりしていました。以前の阿蘇校舎に身を置いたことは、農業従事者への大きな一歩でした。農家の家に下宿し、学生時代からトラクターの運転もできました。都会にいて理論だけを学ぶのではなく、幅広い実践力を身につけることができました。休学して南米に渡った際も農学部で養った力を存分に生かしました。
当時、農業大学校を卒業しても農業に新規参入することが難しい時代でした。職業の選択が自由なこの国で、希望する職業に就けないことに矛盾を感じていました。そんな時、日本人が南米に移住し農場を作ったことを知り、どのような思いで移住し、活動をしてきたのかを自分自身の目で確かめたいと思い、大学3年次に1年半ほど休学して南米に渡り、3千ヘクタールの牧場開発に携わりました。
現地では、元日本兵の小野田寛郎さんの牧場に隣接する場所で働くことができ、よく交流する機会がありました。今でも南米での出会いや経験は宝物です。
そして、多くの経験の中で南米に最初に移住した人たちがジャングルを開拓し、大変な苦労をされていたことを知りました。先人の方々のように挑戦すれば、日本でできないことはないだろうと思いました。
帰国の際も、「農場を任せるから残らないか」と言われ、帰りの飛行機に乗る寸前まで、残るか否か相当悩みました。今でも南米に来ないかと言われることもあるくらいです(笑)。
視野を広くもって、様々な経験をしてください。自分がどう生きるべきか、自分の人生観を学生時代にしっかり考えてください。そのスタートが大学にはあります。生き方を考える機会として大学を活用してもらいたいと思います。