【プロフィール】
1966(昭和41)年5月30日生まれ、47歳。 大津町出身。菊池高校―鹿屋体育大学体育学部中退。高校時代、ライトウェルター級で国体優勝など数々の戦歴を残し、大学進学後も施設、指導者など練習環境が揃わぬ中1人で活動し全国大会へ出場する。開新高校では平成9年から指導をはじめ、10人の全国チャンピオンを育てるなど県内屈指の強豪校へと導く。熊本市中央区国府1丁目で「居酒屋ふくふく」を経営。 若者へのメッセージ 「己に克つ」
T1 park 記者
開新ボクシング部の近況を教えて下さい。 西垣監督 現在、部長と監督、選手19人で活動しています。試合の方は8月に行われた全国高校総体でウェルター級の松野晋久君(3年)が優勝、4年ぶりに全国制覇を成し遂げてくれました。長い間低迷していると感じていましたが、今振り返ると4年間あっという間でした。 |
T1 park 記者
普段の練習はどのような感じですか。 西垣監督 練習時間は平日16時から18時まで、土曜日は13時から15時まで。限られた時間の中で集中して取り組んでいます。私もその後仕事がありますし、短期集中型の練習が今の部員に合っているのかもしれません。子供達にはメリハリを利かせ、和やかな雰囲気と厳しさをうまく使い分けて接しているつもりです。
T1 park 記者
練習中も和気あいあいとした雰囲気でした。 西垣監督 ケース・バイ・ケースですよ。実践形式で真剣にやっている時は鬼のように厳しく指導します。拳がぶつかり合う競技なので気を抜いていると怪我につながる。お預かりしている生徒を大怪我させて帰すわけにはいかない。寒い時期は実践形式の練習は一切やりません。冬場は基礎体力づくりに専念しています。 T1 park 記者 どのようなトレーニングですか。 西垣監督 たとえば、立田山に行って階段ダッシュや手押し車をします。真冬にあえて風がびゅうびゅう吹きつける場所でのトレーニングです。考えただけでも嫌になるでしょ。これは体力も付きますし、なにより精神面の鍛錬になります。 |
T1 park 記者 冬場の精神鍛錬が春先の試合で生きてくると。 西垣監督 そう信じています。開新ボクシング部からこれをなくすと高校総体の大一番では戦えないのではないかと思います。やってみないと中々分からないと思いますが、ボクシングは3分間パンチを出し続けるだけでもかなりしんどいんです。毎日やっている子達でも足はガクガク、手はヘロヘロになる。自分との戦いでもあるんですよ。 T1 park 記者 練習中はどんな事を考えていますか。 西垣監督 とにかく「ブザー(終わりの合図)よ、鳴ってくれ」ということだけですね。パンチのラッシュは本当にキツい練習なのですが、普段から自分を追い込んでおくことが大事。そうした日頃の積み重ねで試合の苦しい時にもうひとつ手が出せたり、もう一歩前に踏み出せたりできるようになる。高校生レベルで力の差というのはそうないですから1番大事なのは精神力です。どんなにセンス、能力が高い子でも気持ちが伴わなければ勝てません。 |
T1 park 記者
ボクシングはストイックな競技というイメージがあります。 西垣監督 もうね、嫌なことだらけですよ。私が減量中に一番思っていたことは「コーラを飲みたい」ということ。負けるのは嫌いだったんですけれども「負けてもいいからとにかく体重調整から解放されたい」の一心でしたね。 T1 park 記者 相当きつそうですね。 西垣監督 きついというか我慢が続くことが辛いですね。プロと違ってアマチュアは試合に勝つと翌日にまた計量と試合がある。この状態がトーナメントを勝ちあがる間ずっと続いていくんです。これを辛抱するのが大変なんです。ただ、今考えてみるとこの経験が後々いい形で生きてきているような気がしますね。「己に克つ」、まさにそんな競技だと思います。食べ盛りの時期には酷ですがね。 |
T1 park 記者
試合前はどれくらい制限するものですか。 西垣監督 私も弁当を3つ持っていく位よく食べる方でしたが、試合前になると家では絶対何も口にしませんでした。そして私の場合は根性がありませんので長期間ダラダラやるのは苦手でしたから、だいたい10日間で5㎏から7㎏一気に落とします。そのかわり体力もガタッと落ちますので、どういう展開であれば相手を倒せるのか自分なりにいろいろ考えて試合では1ラウンドで勝負しようという戦略を立てていました。 T1 park 記者 とことん自分と向き合うスポーツですね。 西垣監督 私も色々格闘技をやりましたがその中でもボクシングは特殊ですね。「痛い、怖い、きつい、汚い」ですから普通じゃやれないですよ。その分終わった時の達成感と勝った時の喜びは凄い。これはやった人にしか味わえない感覚だと思います。 勝負の世界ですから試合では勝ち負けがつきます。しかし、それがすべてではありません。自分の持てる力をきちんと発揮すること、これが大事だと思います。ほかの競技や入試でも自分の力を出せずに終わってしまう人も多いと思うんですよね。うちの生徒はわりかし100%、場合によっては120%の力を発揮することもある。そこは指導者の持っていき方ひとつで随分変わると思いますし、指導の醍醐味になっているように思います。 |
T1 park 記者
選手が力を発揮できるように実践されていることはありますか。 西垣監督 ひとりひとりに応じてのアドバイスですね。普段の練習でもそうですし、試合の時は特に大事。緊迫した場面でのセコンドの一言って大きいんですよ。状況に応じて色んな声掛けをしますが、一番大事なのはスイッチを探すことです。どこにあるか分からない、目に見えないスイッチを押してあげる。そのスイッチが入った時には本当に驚くほどの力を発揮します。 T1 park 記者 指導者冥利につきますね。 西垣監督 心から「やっててよかった」と思います。うちの生徒は本当に素直です。だから可愛くもあるし、勝たせてあげたい。褒めて伸ばす時もあるし、試合で根性を出す時には「相手にやられるのと俺にやられるはどっちがいいか。前に出れば勝てるぞ、行ってこい」と言う。大体の子はこれでスイッチが入りますが、生徒ひとりひとりに向き合ってそれぞれに違うやる気スイッチを探してあげることが大事ですね。まあ私の娘のように見つからない子もいますけどね。(笑) |
T1 park 記者
部活動を通して生徒たちに伝えたいこと。 西垣監督 先程も申し上げた通りボクシングは辛いことのオンパレードです。逆に言えばこの3年間を乗り越えてくれたら忍耐力がついて社会に出てからもある程度のことは乗り越えていける。そういう成功体験を積んでほしい。 そして個人競技だからこそ〝チームワーク〟が大事だと考えています。練習や試合をするにしても相手がいて初めて成り立つものです。私は大学時代にボクシング部がなかったので近くの高校まで片道40分かけて通って高校生の練習に交ぜてもらっていました。大会の時は自分で書類を提出し、会場で声をかけてその日のセコンドを探したり…。もう大変でしたよ。1人で活動する孤独を経験していますから尚更チーム・仲間の大切さを強く感じますね。 あとはボクシングを通して人のつながりを広げていってほしい。私は今、飲食店を経営していますが、何のつながりが1番大きいのかと言うとやっぱりボクシングのつながり。2カ月に1回経験者で集まる会を開いているのですが、年代や強い弱いに関係なく何時間だってお酒を飲めるんですよ。現役時代はお互い顔も知りませんでしたが、大人になって共に楽しい時間を過ごすことができる。 ボクシングを通じて己に克つこと、仲間を大事にすること、人のつながりを作っていくことを学んでいってくれたら嬉しいですね。 |
T1 park 記者
学生への応援メッセージをお願いします。 西垣監督 私が口にするのはおこがましいですが、今の若い世代に頑張ってもらわないと将来の日本が立ち行かなくなってしまいます。もっと気合を入れた人生を送ってもらいたいですね。勉強はもちろん大事ですけど、次に大事なことは部活動だと思っています。部活を必死にしないと日本はおかしくなる、それ位の感覚を持っています。部活をすれば時には苦しいこともあると思いますが、そこでぐっと耐えて壁を乗り越え、その後にある喜びを味わってほしい。痛みを知れば人に優しくもなれます。私自身も毎日辞めたいと思いながら練習していました。でも自分で決めたことを最後までやり遂げないことが格好悪く感じてなんか嫌だったんですよね。生徒にも自分に対して胸を張れる人生を歩んでほしい。運動部でも文化部でも打ち込む対象はなんでもいいんです。自分の好きなことに必死に取り組み、人とのつながりや上下関係などを学んでほしいと思います。社会に出て大事なことは因数分解を解けることじゃなくてそういうところですよ。 T1 park 記者 ありがとうございました。 Writer T.Nakahara |