自ら目標を掲げそこへ進む
選手の自主性が特長 ―昨年末の高校サッカー選手権・県大会優勝、そして全国大会出場おめでとうございます。 まずはルーテル学院高校サッカー部の特長を教えて下さい。 小野 「365日ボールに触れる」をモットーとしていますが、我々が強制するというより部員たち自らそうであろうとする自主性が特長です。特に昨年から今年にかけては、キャプテンの島津玲斗と副キャプテンの谷本玲弥を中心に、厳しい練習にも挫けない、粘り強くまとまりのあるチームになっていたと思います。 そのおかげで2016年は、彼ら自信が目標として掲げた「熊本県の王者奪還」を5年ぶりに果たすことが出来ました。なお決勝ゴールを挙げた殊勲者は、先に言ったキャプテン・島津です。 成果を大きく取り上げてくれる それが高校サッカーの魅力 ―小野監督が考える、高校サッカーの魅力とは。 小野 競技として面白いのはもちろん、特に高校サッカーは「メディアからの注目度の高さ」も大きいと思います。甲子園が顕著な例ですが、選手も指導者も良い結果を出せば、それだけ大きく取り上げてもらえる。だからこそ、過酷な練習にも耐え続けることが出来る。そういった「メディアとの関係性」は、スポーツの魅力や発展と切り離せないものと実感しています。 私が学生の頃、日本にはまだプロリーグがありませんでした。それが後にJリーグ発足、比例して学生サッカーの注目度も上がり、ますます頑張りがいのあるスポーツになったと思います。ただ私は、自分の生徒に「注目される優れた選手」になることだけを求めてはいません。 「基本の徹底」が、社会で 役立つ力をも育む ―では、指導の上で目標としていることを教えてください。 小野 サッカーに限らず自ら目標を設定し、その達成のために自主的に動く人間を育てること。ひいては「地域住民・企業の方に喜ばれる人材」を社会に送り出していくことでしょうか。 そんな目標のため、私はまず「基本の徹底」をしっかりと指導しています。つまり「挨拶」「返事」「聞く姿勢」「整理整頓」「清掃」の徹底。そして「食事」の徹底、しっかり食べるだけでなく「生命を頂く」ことに感謝し、マナー良く食べることも含めてですね。 またサッカーにおいては例えば、終始ビデオに撮った練習風景をその後のミーティングで生徒たちに見せています。そうすると、自分の怠慢や失敗を客観的に突きつけられることになる。若い頃は誰しも逃げたりごまかしたりしたいものですが、現実から逃げず今の自分と正面から向き合うことで、技術に加え強いメンタルを養って欲しいんです。 結局、そんな「当たり前のことを大切にすること」が、自己管理能力やコミュニケーション力など、いずれ社会に出た時にも必要とされる力を育むことになるのではないでしょうか。つまり選手として一流になって欲しいだけでなく、その前に「人として一流」であって欲しい。それが最大の指導方針です。 ―現在「もっと自由放任的な教育を良しとする」風潮もあるかと思います。小野監督の指導姿勢が、批判されることはなかったでしょうか。 小野 かつては保護者の方からクレームを頂いたこともありますよ。ですが私はそんな時こそ、しっかりコミュニケーションを取ることの出来るチャンスと考えているんです。 まずは相手方のおっしゃることを、きちんと聞く。その上で指導の意図や目的、そこに至るまでの経緯をしっかり説明する。またサッカーにおける戦略など、私の専門分野においては一任させて下さいとお願いする。聞くべきことは聞き入れますが、妥協はしないわけです。そうしたら、かえって応援者になってくれた保護者の方もいらっしゃいます。 そして昨年は、1年を通してクレームを頂くことが全くありませんでした。実は自分の教育法に迷うこともあるんですが、おかげで自信はつきましたね。 平和で安全な環境にいながら そこに甘えがちな日本の若者 ―そんな小野監督自身の学生時代はどんなものでしたか。 小野 実は当時の私は、先生の言うこともまともに聞かないワガママな学生でして(笑)。それが変わったのは、まずは大学3年の頃でしょうか。高校時代から学生サッカー界ではそれなりに知られた選手と自負していましたが、ケガで挫折してしまったんです。 そのため卒業後はビジネスの世界に身を投じたものの、そこはそこで想像以上に厳しい。さらに27歳の時父が亡くなり、自分自身大病にかかったこともあって「この先どう生きるべきか」、真剣に考えるようになりました。そして29歳から2年間、JICAボランティアとしてスリランカで生活。そこで日本にはいないような飢えた子供や強い差別、だけど古き良き価値観を大切にする美徳などを目の当たりにし、「世界の広さ」を実感したんです。 比べると日本の若者たちは、ずっと平和で安全な環境にいながらそれを当然と思い、モノを大切にせず目上の人を敬わず、謙虚さや周囲への感謝の気持ちも足りない。そういう経験を通して、いつの間にか指導者・教育者を志し、今のような考えを持つに至ったんだと思います。 |
「今、ここに集中」すること
―若者へメッセージをお願いします。
小野
私は公民科の教師ということもあり、物ごとには常に複数の見方があると思っています。これまでの私の発言にしても、実際は人間として素晴らしい人が選手としては一流になれなかったり、その逆もあったり…。ですから、皆さんも同じように複眼的な視点を持って欲しい、これがひとつ。仮に私の主張に感銘を受けたとしても鵜呑みにせず、自分で確かめる姿勢を持って欲しいですね。
次に「何くそ魂」、つまり負けん気と希望を持って、なおかつそれを「継続して欲しい」とも思っています。先に「基本の徹底が大切」と言いましたが、それも「続けること」によってこそ、スキルや人間性が育まれるはずです。
最後に「今、ここに集中する」こと。雑念・雑事に囚われず、今この場所・この状況で自分が一番やるべきことに全力を傾ける。これが出来ない子がけっこう多いんですが、そうすると全てが中途半端になりがちで、もったいないですよね。以上を心に留め、皆さんが世の中の進歩のためになる人材となることを、願っています。」