【プロフィール】
1955(昭和30)年12月31日生まれ。熊本市出身。済々黌高校卒。宮崎大学農学部卒。78年鶴屋百貨店入社、2001年取締役、09年取締役総合企画部主管兼業務部主管、11年社長就任。熊本商工会議所副会頭 若者へのメッセージ 「一生勉強」 |
T1 park 記者
長期的な展望としては。 久我 ある意味、百貨店というのは長い間地域の生活文化を担う拠点として中心市街地でその役割を果たしてきたわけです。ですから人生の節目節目に、色々な用途でご利用頂く商品を扱ってきたわけです。そういう百貨店としての役割はこれからも変わらず、お役に立ち続けていきたいと思っています。 一方で、常に世の中は変化していくものだと思います。販売活動の在り方という観点からしますと、流通市場は急速に変化していますので、新たな工夫がさらに必要になってきます。店頭での販売とウェブ上での販売を組み合わせて同期化して色々進めていく必要があります。もちろん「お客様にいかに満足して頂けるか」というベクトルはこれからも変わっていきませんよ。 |
T1 park 記者
仕事をする上で大切にしていることは。 久我 一番大切にしていることは、「人を生かす」ということです。従業員やお取引先、社外のパートナーなど全てに関わる方々の良いところ、優れたところを発揮してもらうということです。色々な人と接触していくなかで、その人の良いところを生かすということは、言うならば「トライ・アンド・エラー」の連続です。失敗やリスクを恐れずに、物事にトライする意欲は強いのかもしれませんね。そういう意味では、私はポジティブ・シンキング100%と言っていいかもしれませんね(笑)。 そして、もう一つ大切にしていることがあります。それは「自分の頭できちっと理解をして物事に取り組んでいく」ということです。決して周りに流されてはいけません。物事を理解して、本当にそうなのかどうなのか一つ一つ自分自身で問いながら進めていくということです。当たり前のことかもしれませんが、仕事をする上で大切だと思います。 |
T1 park 記者
仕事を通じて身に付けて欲しい人間力とは。 久我 仕事というのは人間が創り出していくものです。しかし、その仕事は人間一人で出来るというのは、極めて少ないわけですよ。一人で籠っていては何もできません。やはりチームで取り組んでいくことで創造的なアイデアは生み出されていくものだと思います。その仕事のプロセスを通じて人間は育っていくのだと思います。つまり、人間が仕事を創るのですが、仕事に人間が育てられることも実際にあるわけですよね。仕事と人間は作用反作用的な関係があると思います。そういう意味でどんどん色々な人と接して、他流試合のように人と仕事に揉まれて、能力が高まっていき、良い仕事が出来るようになって欲しいと思います。接するというこのプロセスを通じて、色々な人の生きざまに触れて知るわけですから、その人の持つ良いところは真似をして、しっかり吸収して頂きたいと思っています。 それと同時に大切なことは、社会人になっても勉強を続けることだと思います。色々なジャンルがあるかと思いますが、自分の好きな分野でいいんですよ。本を読んで、自分の見識を養っていく、そうした日頃からの積み重ねが良い仕事ができる素養も作っていきますし、また、人間力を培っていくことになっていくと思います。 |
T1 park 記者
どんな高校時代を過ごされましたか。 久我 どちらかというと、勉強を頑張ったというよりも、みんなとのコミュニケーションを頑張った方でしたね。一風変わったところもあったんじゃないかな、結構マイペースな生徒だったと思いますよ。昔から本を読むことが好きで、結構読んでいました。特に成績優秀というわけでもありませんでした。今でも心に残っているのは、物理のテストで一度50点満点中の6点を採ったことがありまして、あの時はとてもショックでした。当時の物理の先生にみんなの前でこっぴどく叱られて恥ずかしい思いをしましてね。その後、次のテストで満点を採ったんですよ。このことが切っ掛けで物理が得意になって、自信につながりましたね。 |
T1 park 記者
若い頃にやって良かったこと、そして今の自分にとって役立っていることは。 久我 実はね、入学してから1年間は剣道部に在籍していたんですよ。剣道は小学校の頃からやっていて、剣道で大学にも行けるんじゃないかと思うくらい腕には自信があったんですよ。ですが同じ部活内の先輩とちょっとした人間関係のもめごとがあって部を途中で辞めたんですよ。自分が短気だったんでしょうね。大人になってから思ったんですが、この経験は自分にとって若い頃に味わった挫折だったんですよ。「当時は腕に覚えがあったんだけどなあ」って後で言ってもどうしょうもないんですよね。途中で辞めてしまったら全部終わりなんです。これが分かったことだけでも良かったと思います。だから、今の若い人にも若い頃にはどんどん挫折すること、挫折を恐れず色んなことに挑戦することをお勧めしたいですね。 この挫折の経験のお陰で社会人になってから何度か助けられたことがあります。会社に入ってから私も若い頃に何度か辞めようかと思ったこともあったんですよ。ですがね、この高校時代の経験があったからこそ、会社を辞めずに思い留まったんですよ。やっぱり途中で物事を諦めるというのは負けなんですよ。継続するということ、これがなければ、成功だとか、勝利だとかいう言葉は存在しないと思います。 |
T1 park 記者
母校には「三綱領」という理念もありますよね。 久我 正倫理 明大義(倫理を正し大義を明らかにす)、重廉恥 振元気(廉恥を重んじ元気を振ふ)、磨知識 進文明(知識を磨き文明を進む)。つまり、まっとうに正直に生きていこうということ、人間としての慎みを持って大いに世の中の役に立つようになろうじゃないかということ、そして人間としての知識を磨いて、世の中に役立つ人間になろうという意味で、日本人の特質を見極めた素晴らしい言葉だと思います。私にとっても「三綱領」は座右の銘に並ぶ言葉の一つです。もう一つ好きな言葉がありまして、横井小楠が渡米する甥っ子に贈ったものなんですが「尭舜孔子の道を明らかにし、西洋の器械の術を尽くさば、何ぞ富国に止まらん、何ぞ強兵に止まらん、大義を四海に布かんのみ」という言葉で、「三綱領」で言っていることに相通じるものがあると感じているんですよ。共に素晴らしい志が込められています。 |
T1 park 記者
大学時代はどうでしたか。 久我 大学の4年間は農学部にいたのですが、入学してしばらく経ってから立体顕微鏡を覗き込んでいるときに何か違うなと感じて、農業の基礎的なこと以外はほとんど勉強せず、歴史や論理学ばかり勉強していたんですよ(笑)。大学の時に出会った農業経済の上田先生から唯物弁証法という物事の考え方に触れることができました。これは経営する立場になってとても役に立っています。物事というのは相反する要素が反発しながら発展してく二律背反から成り立っていると思うんですよ。 例えば、どんな会社でもそうなんですが、ある時期に新しいものを生み出せない社風になりつつあるとして、これはまずいぞと思いますよね。そんな時に、自分たちの考え方とは異なるアイデアを外部からどんと持ってきて、内部のアイデアとぶつけ合ってみるんですよ。そうするとこれまで見えなかった問題点や矛盾、疑念が見えてくるわけですよ。つまり、対立要素をぶつけ合うことでエネルギーが生まれてきて物事が前進するんですよ。 会社でもよく口にするんですが、「現状の立ち位置を否定して、今までと違うことをやってみろ」ということなんですよ。考え方が右にぶれ、左にぶれ、何度かするかもしれませんが、一番大切なことは前に進むことなんですよ。否定の否定というように二重否定することで大体元の位置に戻るかもしれませんが、最初とはどこか次元の違う位置に進歩しているんだと思うんですよ。自らがどう積極的に変化していくかが大切なことだと思います。ですがね、仕事において、熊本の地域のお客様の役に立って、どうやってハッピーにするかという本質は変わりませんよ。変化にどう適用するかというよりも、変化をどう創り出していくかということを考えたほうが良いのかもしれませんね。こういった考えが唯物弁証法であって大学の頃に恩師の上田先生から学んだで良かったことでしょうか。 もう一つの副産物というのは、論理や哲学などは難解な文章が多くて、何度も何度も読んで挑戦してきたので、国語力が身に付いたと思います。高校時代は古典・漢文が苦手だったんですが、元々歴史が好きだったので大学時代には古典・漢文も好きになりました。歴史は言葉の勉強ではなくて、人の生きざまで、人の生きざまを学ぶことができるのは、意味があり、良い勉強になると思います。あとは、体を鍛えて健康を維持することですよ。 |
T1 park 記者
若者への応援メッセージを。 久我 世の中が少子高齢化と言われていますが、今の高校生の皆さんが40歳ぐらいになった頃は、考えようによっては夢の持てる社会になっていると思いますよ。人口層もフラットになっているわけですから、日本の富を少ない人数で分けるわけですから、決して悲観的になることなく、自分を成長させるために、今、その基礎となる勉強に励んでもらいたい。人間というのは不思議なもので、いずれ大人になると大半の人は知らないことばかりだと気付くようになり、何歳になっても知りたい病になるのだと思います。だから「一生勉強」が大切なんですよ。端的に言いますと、大人になれば、どうせ勉強しなければなりません。だから、若い頃には、その基礎を身に付けておくことです。 T1 park 記者 ありがとうございました。 |