研究内容は、「方向性がないと見られていたウニ類の体に、実は方向性があること」を立証するというもの。コロナの影響で思うようなフィールドワークができず、学内生物室の水槽にいた生物たちをタイムラプス撮影(低速長時間撮影したものを高速再生する)で記録し始めたのがきっかけです。それを見た女子部員が「ウニの移動方向に規則性があるようだ」と言い出し、事実だとするなら調べてみようと。
後で知ったことですが、実は英語の論文に同様の指摘をしたものがありました。とは言えあまり知られていないことで、言わば常識を覆す研究内容です。ですからどう研究すればよいかもわかりません。実験方法を工夫し研究を進めました。最後に研究結果をまとめて発表することになりますが、結果はもちろん、その結果に至った過程も伝わるよう、試行錯誤しながら発表会に臨んでいきました。研究をまとめていろんな大会で発表すると新たな課題が見つかり、それを踏まえてまたブラッシュアップしていくという感じです。全国1位は、そのように部員たちが粘り強く頑張った結果だと思っています。
このように本校生物部での研究活動は私からテーマを課すのではなく、「部員自身が疑問を持ったこと、興味を持ったこと」を対象とするようにしています。そして対象が決まると先行研究を確認し、それでもわからないとなったら、そこで始めて「調べる、研究する」。まだわかっていないことを調べていく、それが研究というものであり、私はそのガイド役と思って顧問を務めています。
『紀の国わかやま総文2021』出場を決めた時の生物部の皆さん。
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研究は真摯に続けるほど
新事実や問題が見つかるもの ― 今後、力を入れていきたいことは。 研究は真摯に調べれば調べるほど、形にすればするほど新しい事実や問題が見つかるもので、全国1位を得た研究も例外ではありません。ウニの研究2年目として部員みんなでアップデートを重ね、昨年10月「ウニ類の移動方向を決める要因には優先順位があった」として県サイエンスコンテスト2021で新たな研究を発表。そこでも最優秀賞を頂き、今年の2月の九州大会と、6月の県総文、そして夏に予定の全国総文祭に参加を決めることができました。運動部の生徒にはわかりづらいかもしれませんが理科部門の場合、県総文や全国総文の参加は前年度の成果によって決まるんです。 ですからまず、今の研究を発展させ、今年の全国総文祭でより良い発表ができるよう研究を続けていく、ここに力を入 |
― 学生時代の、今に活きる「学び」を教えて下さい。
実は私自身、この済々黌高校生物部の出身で、奇遇にも定年間際の時期に、母校の出身部活へ戻ってきたこととなります。
生物部時代、私はとにかく土壌生物に興味がありました。トビムシとかダニとか土中で過ごす生き物たちですね。いろんな林でそうした生物のことを調べていくにつれ予想外の事実を発見し、観察や研究の面白さ、また事実を確かめることの大切さを知りました。
さらに他の部員たちによる様々な生物の研究を見たり手伝ったりする中で、より多様な自然環境に視野が広がる思いもしました。こうした人も自然も多様な環境で高校生活を送ったということも、今に活きている気がします。生徒が興味を持ったことは、私も自然と面白くなってきますから。彼らと共に学ぶことを通して、今も日々新鮮な思いをさせてもらっています。
今「正しい」とされていることも
正しくない可能性が大いにある
― 座右の銘は。
「考えろ」「気づけ」「自分で見ろ」「体験しろ」…格言のようなものではなく、そういった言葉になってしまいますね。
「朝令暮改」とか「君子は豹変す」って、当たり前だと思うんです。前に言ったのと違うことを言うと批判されることもありますが、ちゃんと自分で調べて自分の頭で考え続けていると新事実や問題が見つかってくるため、判断や行動も変わるわけです。ですからむしろ、一度言ったことや決めたことに固執する方がよほど問題だと思うんです。
― 若者へメッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、物ごとを鵜呑みにしないで欲しい。それがどんなに偉い人の言うことでも、権威のある人の言うことであってもですね。
生徒たちにもよく言うんですが、今教科書に載っていることは、来年の教科書では必ずどこかが変わるんだよと。君たちの親世代が学んだことと、今君たちが学んでいることも、違うところがいっぱいあるんだよと。つまり現在「これが正しい」と言われていることでも、そうではない可能性が大いにあるということです。ですから何よりも自分で確かめた事実を大切に、より良い社会の担い手になってくれたらと思います。
(インタビュー/2022年1月15日取材)