まさか教育長になるとは思ってもいませんでした。幸いにも教員退職後は4年間、熊本壺渓塾学園理事として県内外の高校を訪ねて営業も担当していました。そういう意味では自分の中の「教育」に対する火を消すことなく、他県や私立高校の教育について学ぶ機会になりました。県立高校の教育現場や県教育委員会の勤務経験も生かしていきたいと思います。教育長の仕事は私にとって、これまで取り組んできた教育の総決算とも言えます。日々ワクワク、ドキドキの連続です。
教育委員会は学校現場にビジョンを示し、子供たち、そして先生たちの成長を促し達成できるように後押ししていくことが大切な役割の一つです。現場の先生たちの要望や意見を吸い上げて、再度確認し、次に生かしていこうとしているところです。教育を取り巻く環境は常に変化し続けています。現場の先生たちが学ばなければならないことが以前よりも大幅に増えています。こうした状況において、先生たちが学び続けられる環境の整備にも力を入れていきたいと考えています。
|
豊かな教育の土壌を創る ― 今後力を入れていきたい取り組みは? VUCA(ブーカ/予測不可能)の時代と言われて久しくなりますが、一生学び続けていくことが求められる時代とも言えます。子供たちの成長にとって、あらゆる人の価値観とぶつかり合い、自問自答しながら融解・融合して自分なりの価値観を創り上げていく過程が重要です。 偏差値、就職率で高校入試の難易度を考えるならば、それぞれの学校のカラーがあると思います。しかし、入学してくる生徒たちは異なる多様な価値観をそれぞれに持っています。それを学校の先生や周囲の大人たちが一つの物差しで測って、潰してしまうことだけはしたくないと考えています。これまでのように勉強が「できる・できない」という言い方で括ることはできない時代に突入しています。今後さらに豊かな教育の土壌を創っていきたいと思います。 好きなことにチャレンジを ― 学生生活で、学生さんに学んで欲しいことは |
|
人との出会いで今の自分がある。先ずは動くこと、チャレンジすること。 ― ご自身の学生時代の経験から〝今に活きる学び〟を教えてください。 学生時代、海外旅行に興味があり、必死にお金を貯めて卒論の検証もあって一人で40日間ほどヨーロッパを旅しました。バルセロナの「サグラダ・ファミリア」を訪れ、地下の作業場などを散策している時に、ファサードの作品づくりに没頭していた外尾悦郎さんという日本人の彫刻家と偶然出会う機会がありました。当時学生だった私は外尾さんのことも何も知らずに旅していて、その日出会った外尾さんと話しが弾み、夜はバル(居酒屋)で一緒に飲み、色んなことを話しました。 そこで、忘れもしません。「何故サグラダ・ファミリアは完成までに数百年もかかると言われているのですか」と質問したんです。私は日本人の感覚だと数年で完成できるのに、と疑問に思ったんですね。そうすると、外尾さんは私たちが座っていたテーブルを指して「ここに穴を空けるなら、どうやるか?」と私に聞いてきて、私は「ドリルやノミを準備して穴を空ける」と答えたのです。それに対して、外尾さんは「日本人の感覚はそうだよね。スペイン人だったら、今ここにあるナイフやフォークを手に取ってカツカツ穴を掘り始めるだろうね」と答えたんです。その言葉は今でも強く印象に残っています。 あの時思い切って外尾さんに話しかけたことで、コツコツとチャレンジすることを教わったような気がします。外尾さんが若い私に伝えたかったことは、方法や道具は色々あるだろうけど、どの方法が正しいかが問題ではなく、目の前のことに対して先ずはチャレンジすることが大切だということだったと思います。 その後も外尾さんとの出会いが色々な場面で思い出されました。人と出会い、会話することでその時は気付かなくても、振り返った時に気付くことで、その出会いが生きる支えや基盤になるんだと感じています。だからこそ、若い時には色々な人と出会い、話して、多くのことにチャレンジすることが将来の礎になると思います。 それに関連してもう一つ、中学生の時に、俳優・歌手の中村雅俊さん宛てに「『ふれあい』のギターコード表を送ってください」と手紙を出したことがありました。そうしたら驚 くことにコード表のコピーが返ってきて感動した思い出があります。 |
↑ 学生時代の越猪さん
↑ サグラダ・ファミリア 越猪さん撮影
|
「コツコツが夢のトビラを開くコツ。それはほんなコツ」
― 座右の銘は?
長年読書を通じて多くの刺激を受けてきました。読書は力だと思っています。このように常に言葉と向き合っているため、座右の銘は沢山あり、日々変わるというのが基本的な考えです。今大切にしているのは「コツコツが夢のトビラを開くコツ。それはほんなコツ」です。
これは「コツコツが勝つコツ」という言葉を発展させて、勝ち負けだけに限らず、当たり前のことでもコツコツと続けることの大切さを教育の分野でも再度考えたいという思いを込めています。
― 若者へメッセージをお願いします。
「みんな初めての人生をやっている。思い切ってやれ!」という言葉を伝えたいと思います。初めてのことは、失敗したらどうしようと考えてしまいます。周囲の人からも色々なことを言われるかもしれません。しかし、本当は誰もが人生、毎日毎日初めてのことなんです。そう考えれば、年齢やキャリアはまったく気にすることはありません。
何事も考え過ぎず、先ず動いてみたほうが、結果は良くも悪くも出てくると思います。私も教育長になってから、これまでにない人生初めての体験を数多くしています。失敗を恐れず、精一杯好きなことに挑戦してください。





















