技術によって日本の成長を支え、産業界や教育界から評価される多くの人材を輩出していることは今も昔も変わりません。一方、科学技術の進化発展が社会に及ぼす影響の増大は、グローバル化・国際化・少子高齢化などの大きな潮流とも相まって、人々のライフスタイルや価値観に変化をもたらしています。ですからそういった変化に柔軟に対応できる、「人間力」および「国際性」を備えた実践的・創造的な技術者を育成することを現在、本校の目的としています。英語教育や国際交流に力を入れている点も、その表れと言えるでしょう。
右手を前方に伸ばして鼻取り(山笠の舵取り)をしている荒木校長。2016年7月10日、博多の企画&執筆業・益田啓一郎氏撮影。 | OB・OGと地元企業との マッチングを組織的に推進 ― 今後、力を入れていきたいことは。 本校の理念の1つに、地域社会への貢献があります。しかし就職率ほぼ100%を誇る本校ですが、地元の企業様や団体には、求められるほど多くの人材を送り出せていないのが現状です。 それというのも、まず本校は1学年240人と学生が少ない。その上、半数近くが大学へ編入したり大学院へ進学したりします。国立大へ行く学生が多いのは嬉しい半面、九大などへ行き熊本を離れる者もいる。また就職の際にも、都会の大企業を志望し県外へ出ていく学生が少なくありません。もちろん地元の役に立ちたい、あるいは一度県外に出たけれど、戻って働きたいという者もいます。しかしこれまでは卒業生とその恩師といった、個人的なつながりで就職が決まるパターンが主でした。 |
修猷館高校(福岡)3年生の頃。右端が荒木校長。 | 努力を続けていけば 少しずつでも前進していく ― 学生時代の、今に活きる「学び」を教えて下さい。 中学時代、英語が本当にわからなくなってしまった時期があります。ただ、そこで諦めるのではなく英和辞書片手に、英文の単語の意味をじっくり考え続けました。同じ単語でも辞書には複数の意味が書かれていますから、どの意味が適するのかは文脈から一生懸命汲み取っていくしかない。それは根気のいる地道な作業でした。 ですが自分をごまかすことなく努力を続けていけば、少しずつですが「わからなかった」ことが、「わかる」ようになっていくのだと学びました。その時の経験はもちろん、その後の研究にも役立ったと思います。 |
より良い「人間の幸せ」を
提供できる技術者に
― 貴校での生活を通して、学生に身につけて欲しいことは。
いわゆる「技術バカ」がやっていける世の中では、とうになくなっています。ですから技術者と言えども、外国の方を含め様々な人と共同で仕事ができるコミュニケーション能力や、語学力・国際性など、総合的な能力を身につける必要がある。それが先に言及した「人間力」「国際感覚」の意味ですね。
また、これも先に言ったことと重なりますが「たくましくもしなやかに」成長してくれること。今後ますます加速するであろう社会の変化に対応できる、強さと柔軟性をも養って欲しいということです。そしてゆくゆくは技術を基礎に新しい価値観、新しいライフスタイルを創出し、より良い「人間の幸せ」を社会に提供できる、「創造的技術者」になってくれることを願っています。
真の「国際的な人材」に
― 若者へメッセージをお願いします。
何度か「国際性」という言葉を使いましたが、自分が国際的な会議に出るようになって感じたのは、まず「自分のバックグラウンド」をよく知るべきということ。己を知らずして外国のことばかり学ぼうとしても、「国際的」にはなれないということです。
InternationalのInterは、相互的ということですね。ですが最初、国際会議では外国の方からいろんな話を一方的に聴くだけで、「ところで、お前はどうなんだ?日本はどうなんだ?」と聞かれても、私は何を言えばいいのかわかりませんでした。それで自分の足元を見つめ、その数年前から参加していた博多祇園山笠について、そのしきたりや歴史から学び始めました。さらに博多の文化や伝統などへ興味が広がっていき、そういったことを話すと外国の方が喜んでくださり会話が盛り上がって、私もいっそう海外のことを学ばせてもらえるようになったというわけです。
これからは本校生徒に限らず、多くの若者に国際性が要求されます。ですからまずは自分の足元を見つめ、アイデンティティを確立して欲しい。そして受け取るだけでなく、自分自身の「意義ある何か」を発信できる、真の意味での「国際的な人材」になってくれることを願っています。