【プロフィール】
1962(昭和37)年2月21日生まれ、52歳。八代市出身。九州学院高-日本体育大学体育学部卒。小学校6年から本格的にバドミントンを始め、全国中学生大会団体優勝。全国高校総体団体優勝(熊本県勢初)、個人単・複優勝(各2回)、国民体育大会優勝(2回)。全日本学生選手権団体優勝(2回)、個人複優勝・単準優勝(3回)。国民体育大会成年男子優勝(2回)など輝かしい戦績を残す。また、指導者としても手腕を発揮し、芦北高校では全国選抜大会団体優勝・全国高校総体準優勝、八代東高校へ赴任後は熊本県高校総体19連覇(継続中)、全国高校総体団体優勝(2回)・個人単・複(2回)優勝、全国選抜大会団体優勝・個人複優勝、国民体育大会優勝など全国で指折りの名門校へと育て上げ、日本男子初の快挙となるトマス杯(世界大会)優勝メンバーや五輪代表選手など多くのバドミントン選手を輩出している。体育教師。 若者へのメッセージ 「やる気・本気・その気」 |
T1park記者
本日はよろしくお願いします。普段は取材や講演依頼などお断りされているとのことですが。 権藤 人前で話すのは本当に苦手で初めはお断りしようと思いました。しかし、バドミントンという競技の素晴らしさを広めたい、そしてもうお亡くなりになっておられますが私の恩師である西田淳二郎先生という素晴らしい指導者がいらっしゃったことをお伝えしたかった。その先生と奥様のお陰で今の私があり、先生から学んだ指導者のあるべき姿が特に若い方々の参考になればと思い引き受けました。 T1park記者 八代東高校バドミントン部の近況から教えて下さい。 権藤 部員32人で活動しています。すべて男子です。普段の練習は16時から19時半ぐらいまで、体育コースがあるので週に2日は授業と連動して14時から18時半まで練習しています。土曜は終日、日曜は半日です。競技としての目標はやはり日本一。「克己」を部訓とし、バドミントンを通して最後まで諦めない強い精神力を身につけられるような指導を心がけています。 |
T1park記者
権藤流練習の特徴は。 権藤 基本を大事にし、しっかりとした土台を築くことを意識しています。仮に高校の大会で勝つことができたとしても基本がしっかりしていないとその後順調に伸びていくことができません。練習プログラム自体はどこも大きくは変わらないと思いますので大事なのは集中し一つ一つの練習の精度を高めること。ペアになって練習する場合にはミスした方が負けだという気持ちをもって臨まないといけない。極端に言えばシャトルをすべて相手コートに打ち返せば勝てるのがバドミントン。試合ではミスが多いほうが負けてしまいます。どこの学校も基本ストロークの練習をやりますが、皆ウォーミングアップという気持ちでやります。ところがその時点でもう勝負なんですよね。そのあたりの意識付けは日頃から気をつけています。基本ストロークも本気で取り組んでいれば15分くらいの練習でも息が上がるくらいキツイんです。毎日のことですからこの小さな違いは3年間で相当大きな差がでます。 |
T1park記者
厳しい一面があったからこそ強くなれたのでしょうか。 権藤 それもあるとは思います。しかし、先生には厳しさの中に優しさがあるんですよね。優しく接するのではなくて無言の中に優しさがあるというか。たとえば、先生はウォーキングを日課としておられ、私たちもそれについていっていました。もちろん歩いている間はなんの会話もありません。ただ黙って後ろをついていくだけです。たまに喫茶店などに入っては夏であればかき氷などをごちそうなりました。そのときもほとんど会話はありません。私たちがしゃべるのは「いただきます」と「ごちそうさまでした」くらいです。しかし、子供ながらに先生が可愛がってくれているのが分かっていました。 |
T1park記者
チームあるいは選手として成長するコツは。 権藤 先生の教えを受けて私が自分なりに考えているのは、取り組む姿勢づくりですね。これがなければどんなに素質があってもどんなに練習しても強くならないと思います。取り組む姿勢が良いと同じものを見て同じもの聞いても感じ方が全然違います。たとえば実業団で活躍する卒業生が来てバドミントンを見せてくれたりしても、姿勢が悪い子はただ見ているだけ。一方、少しでも強くなってやろうという気持ちを持っている子は足の動きがどう動いているか、どのようにショットをしているかと細かく見ています。 私もそうでしたが高校生は色んなことがやりたくなる時期です。しかし私が教えることができるのはたったの3年間。選手を預かる以上、生徒にもその3年間は修行と思えと言っています。1日24時間と限られている中で、バドミントンをして、勉強して、友達と遊んで、彼女を作って、携帯して、睡眠時間をとる、そんなことは無理です。やるべきことは勉強とバドミントン、そして休養の3つ。バドミントンに取り組む姿勢が悪ければ他のことに時間を費やしてしまいます。ただ真面目すぎても面白みに欠けるのでたまには遊ぶことも必要。遊ぶことと楽な方に逃げることは違いますのでメリハリをつけて気分転換をすることが大事です。 |
T1park記者
部活を通して伝えたいことはなんですか。 権藤 バドミントンを通して色んな人生勉強をして、人生を生き抜いていく力を身につけてもらいたいですね。克己の精神を持ち、自分に厳しく人に優しく。常にそういう気持ちでいれば当たり前のことが当り前じゃないというのがだんだん見えてくると思います。なんでも当たり前と考えている人間は自然と感謝の気持ちが出てきません。挨拶や返事、お礼を言うにしてもマニュアルでやってもダメなんだと思います。自然体でできるようになるのが一番でそれを部活動を通して学んでもらいたいなと思います。 生徒にいつも言っている「やる気・本気・その気」という言葉があります。当然うちに来ている子は「やる気」を持っています。これは最低限必要なもの。「本気」になればなぜ自分が八代東に来たのかが分かるのでやりたいことを犠牲にしてでもやるべきことをやるようになる。最後の「その気」というのは、どんなにやる気を持って本気になったとしても最後にどこかで日本一になれないなと思う気持ちがあればなれません。俺は絶対日本一になる、できるという気持ちにならないと夢は実現できないと思っています。相手ではなく自分の弱い心に負けてしまうんです。本当の敵は自分自身なんです。 |
T1park記者
若者への応援メッセージをお願いします。 権藤 スポーツでも文化でもなんでもいいから自分がやりたいものを見つけることが大事。私の場合は実家の目の前に体育館があり、そこで色々な遊びをさせてもらう中でたまたまバドミントンと出会い、ジュニアでいい先生に出会い、高校で人生を変える先生に出会って現在に至っています。最初は単純にバドミントンが好きで始めたので、まずは自分が一生懸命になれるものを見つけてほしいですね。 あとは人との出会いを大切にすること。人との出会いは偶然ではなく必然です。ひとつひとつの出会いを大事にしていくことで世界はどんどん広がり、自分の人生が良い方向に進んでいきます。 それから継続も大事。私は選手を全国チャンピオンに育てたとしてももしその子がバドミントンを嫌いになるようであればそんな指導はしたくない。この先もうやりたくないと思わせたら指導者失格だと思っているので。バドミントンをずっと好きであってほしいし、どんどん好きになっていくような指導をしていきたいと思っています。 T1park記者 ありがとうございました。 |