私は今年4月に就任したばかりですが、もともと本学の卒業生ですし、医療従事者・研究者としても長いこと働いてきました。また大阪の研究機関に勤めたり海外の学会に参加したりもしましたから、中からも外からも、本学をしっかり見てきたと自負しています。そうした経験から言いますと、地方にありながらこの「熊大」は、全国的にも評価されている大学です。研究面でも、教育面でも、学生の質においても、高いレベルとポテンシャルを有している。ですから本学の素晴らしい歴史・伝統はしっかり引き継ぎながらも、先程述べたハイブリッド教育のような新しい試みにどんどんチャレンジし、そのポテンシャルを引き出し発展させていきたいと考えています。
そうして地方にありながら、この熊大をいずれ「日本のトップ10」にすること、無理と言われるかもしれませんが、昔から私は、そう言われるとかえってやりたくなるタイプでしてね(笑)。熊本からだってトップ10を目指せる。その実現にチャレンジしていきます
視野の広さや柔軟性が
今後、誰にでも重要になる
―貴学での生活を通して、学生に身に着けて欲しいことは。
小川
第一に、コミュニケーション能力。私の専門である医学にしても他の分野にしても、1人の研究バカが大きなことをやれるような時代は、とうに過ぎ去っています。ですから多様な人材とコミュニケーションが取れる力というものは、今後ますます重要になっていくと思います。
第二に、英語力。AIの発達で瞬時に翻訳できる時代が来ても、やはり相手の言葉と自分の言葉そのままで、直にコミュニケーションを取ることには敵わないと思います。また海外で働く上ではもちろん、日本にもどんどん、外国出身の人材が増えてきている。彼らと関わり、またその文化を理解する上でも、最大の世界共通語と言える英語の習得はやはり重要なものと考えます。
第三に、専門分野に囚われないこと。これからはどんな道に進むにしろ、分野の垣根を越え横断的に物事を捉える必要があるということです。
そして第四に、読書の習慣。自分の経験だけでは得られないことを、他人が書いた本を通して経験することで、視野を広げて欲しい。そして固定概念に囚われない、柔軟な人間になって欲しい。以上の4つは、全てつながっていることだと思います。
―学生時代の、今に活きる「学び」を教えて下さい。 小川 小学校から野球を始め、熊大でも医学部の野球部に入りました。なお当時は私が在籍した頃に、全国の医学生が参加する大会で優勝したこともある強豪でした。 ただ私は残念ながら、ケガのため優勝した年に試合に出ることは叶いませんでした。ですが靭帯を切ってもリハビリして野球を止めず、引退するまで練習を頑張り続けた経験は、ちゃんとその後に活きていると思います。 例えば医学部を卒業して研修医になると、徹夜だったりほとんど寝られない状態が当たり前。今の人には真似して欲しくない過去の悪しき慣習ですが、とにかく本当に体力勝負でした。そんな日々を乗り越えられたのは、やはり学生時代、野球の猛練習を頑張り続けたからこそだと思います。またそのおかげで、70歳近くになった今も健康に不安を感じることなく、元気に学長を務めることができているのだと思っています。 |
耳に痛い言葉を避けていると
最後に困るのは結局、自分
―座右の銘は。
小川
「対話と傾聴」です。嫌なことでも、ちゃんと耳を傾ける。またその前に、嫌なことを言ってくれる人を、そもそも周りに作っておくことが大事だと思っています。
誰しも歳を重ねたり地位を得るようになると、だんだんそうじゃなくなりがちです。でもそれって、原因は結局、本人にあると思うんですね。耳に痛い言葉を避け、楽な方に逃げてしまう、だけどそうなると最後に困るのは結局、自分。いわゆる「裸の王様」ですよね。そんな困った存在にならないよう、気をつけなくてはと思っているわけです。
―若者へメッセージをお願いします。
小川
自分ができる限り、ベストな努力はしておくべき。そうでないと、きっと後悔することになると思います。
私自身がそうですからね。大学受験なんか自分ではけっこう頑張ったと思っていたけど、後になって「俺はもっとやれたんじゃないか」、そう感じる機会に出くわすことがありました。自分の限界を、自分で勝手に決めていたんじゃないかと。
若い方々に、そんな後悔をして欲しくないわけです。今、限界だと思っていることでも意外とそうじゃなかったりするということ。だから頑張って頑張り抜いて、自分の殻を打ち破って欲しい。そうして自分の想像以上に高く、大きく羽ばたいてくれることを願っています。