――八代白百合高校剣道部の近況を教えてください。 今年3月に行われた第31回全国高等学校剣道選抜大会で優勝することができました。本校の剣道部としては16年ぶり、5回目の日本一です。これまでの努力が報われたとともに、努力は裏切らないということを身に染みて感じました。先輩たちが築いた伝統を少しだけ受け継ぐことができたのも、心の底から支え、応援してくださったたくさんの方々のおかげだと深く感謝しています。私は高校時代に全国制覇をしましたが、その時の喜びと、教え子たちが全国制覇するのとでは、やっぱり感覚が違って、とても嬉しかったですね。みんなで喜びを爆発させました。勝因は生徒それぞれが自分の役割を理解し、実行してくれたことだと思います。メンタル面が強くなっていて、成長を感じました。 その後のインターハイは、残念ながら団体3位という結果でした。部員は全部で21名おり、一番人数が多かった3年生8名がインターハイ後に引退。1・2年生13名からなる新チームとなり、ゼロからチーム作りをしているところです。 ちなみに、本校剣道部のカラーは、仲が良くて元気なところ。今は部員みんなが寮生で、いつも一緒で家族のようです。学校生活にも部活動にも楽しく励んでいます。 |
「覚える」「実行する」だけはダメ 「理解して行う」ことが大事 ――今後、力を入れていきたいことは。 指導の際に、生徒たちに“気づかせる”ことを大事にしていきたいです。言われたことをそのまま“覚える”のでなはく、“そのまま実行する”だけでもなく、きちんと“理解して行う”ことが大事だからです。剣道においてメンタル面はすごく大事で、自分で考えて動けることが上達へとつながります。 そこで、“気づかせる”ために稽古の中で、よく会話をするようにしています。「自分の感覚としてとらえられているな」とか「ニュアンスがズレている」「考え方がまだまだ」とか、良いところも悪いところも気づくことができるからです。 また、現在は決まった練習というものを特に設定しておらず、生徒の個性を伸ばすために状況に合わせた指導を心がけています。チームや人が違えば、練習内容は変わるはず。変化を恐れず、稽古を積んでいきます。 |
常に成長できる人に
本校剣道部は3つの目標を掲げています。1つは「日本一になる」こと。2つ目は「求められる人間になる」こと。そのためには真面目なだけではダメで、個性や面白さも大事。そして人が求めていることに気づき、それに応えられる力も必要です。そのような能力の高い人が「人間力の高い人」と言えるのではないかと思います。人間的な魅力のある人になってほしいですね。
3つ目は「好循環をつかむ」です。これは「自分を成長させられるような姿勢を身につけよう」ということで、いわゆる伸びる考え方です。中学校を卒業して本校の剣道部に入部してくる子どもたちの中には、地元で一番強いという子も多くいます。自信を持っている子、持っていない子、いろいろな生徒がいますが、うまくいったときにのぼせたり、うまくいかないときに言い訳したり腐ったりすると、そこから伸びません。良いときはおごらない、悪いときは良い方向に向けるための考え方をする。どんなときでも成長できる方向に物事を考えられないといけません。それが「好循環をつかむ」ということであり、そのことを部活を通して伝えていますが、学校生活やこれからの受験、そして社会に出てからも、この考え方を身につけておけば伸びていけると思います。剣道だけが強くなってもダメ。剣道を通して、いろいろな学びを得ることが大切です。
――学生時代の、今に活きる「学び」を教えてください。 剣道には、その人の性格的な面が出ます。そのため人間力がないと試合には勝てません。技術では勝っていても、気持ちで負けて試合に負けたという経験が私にもあります。 しかしながら、高校時代は「勝つために人間力を上げないといけない」とは、具体的に意識できていなかったように思います。ですが、勝ちを目指す中で、九州学院高校剣道部監督の米田敏郎先生は、私たちの考え方について時間をかけてご指導くださいました。本当にありがたいことです。 特に印象に残っているのは、ある年の九州大会。団体戦の決勝で私が勝利し、チームは優勝することができました。そのことに喜んだ私たちを、米田先生は強くお叱りになったのです。それはきっと、「今の状況におごってはいけない」というメッセージなのだと思いました。その後に全国大会があり、その日の試合内容も決して良いものではなかった私たちは、気持ちを引き締めることができました。その経験が、先ほど話した「好循環をつかむ」にもつながっています。高校時代の米田先生の指導が、私にとっての指導者の軸になっており、そこに自分なりの新しい方法も取り入れて実践しているところです。私は指導者になり、米田先生と試合会場でお会いするようになりました。とても緊張しますが、そうやって試合会場で先生にお会いできるのはとても嬉しく、いろいろ質問などもさせていただいています。米田先生は私の憧れの指導者です。 |
「人のため」に動ける人間に
「最善だと思わない」。常に変化していくことが大事です。もちろん何事も最善だと思うからこそ実行するのですが、やってみてダメならすぐに変える。うまくいってもそれで終わらず、変化や進化を怖がらずに変えていく。守るのではなく、どんどん変化していくことが大事だと思います。
「仲間を伸ばす」「仲間に育ってもらう」という意識を持つと、自分のためにも、自分たちがいる環境のためにも良いと思います。部活動の中には仲間も、ライバルもいるでしょう。自分が上に行くために、その人たちを蹴落とすのではなく、あえて周りを伸ばすように考えてみてください。それは“譲る”ということではありません。支えたり、励ましたり、教えたり、教えられたり。人のために自分を動かすようにするということです。「組織のための自分」という意識がないとダメだと思います。人に強く当たって蹴落としたり、いがみ合ったりするのは本当の強さではありません。人のために自分を動かすと、その環境が良くなっていきます。そしてチームメイトが強くなればチーム自体も強くなり、そこにいる自分にも必ずプラスになることがあるはずです。
(2022年10月4日取材)