そして両店舗とも昔と同じ場所で、令和になった今も営業を続けています。長崎次郎書店は、かつて住居などに使われていた2階を『長﨑次郎喫茶室』に。長崎書店は2006年に店舗をリニューアルし、またギャラリーと多目的ホールを併設するなど、当時のままではもちろんありません。ですが「熊本の街に根ざす、人々に愛される書店」でありたいと、変わらぬ思いを持ってやっています。
またネットとは違う「リアル店舗」の強みを活かし、様々な作家さんのトークライブ、絵本の読み聞かせなど「本を読む」だけではない体験、空間を味わっていただく。2014年には『上通スタンダード大学』という、上通で働く人のための商店街大学を開講しました。年に数回、様々なジャンルのプロを講師に、無料で学べる場を提供し、商店街の質・魅力向上を図るというものです。このように自分たちのお店だけでなく、地域の様々な人・お店と共に面白いことをやる。原点である「本」についても、熊本に縁のある著名人に1冊ずつセレクトしてもらった、計100冊の文庫フェア『La!Bunko』を2010年より開催。これは売れ行きも良く、話題にもなりました。また普段から地元出身・在住の作家のものなど「熊本ゆかりの本」を入り口付近に置いたりしています。このように「長崎書店・長崎次郎書店ならではの個性・魅力」を打ち出し、さらには地域の活性化にも貢献したいと思っています。
ワクワクをつくるには 自分にワクワクがないと ―熊本の現在と未来について思うことは。 長﨑 私が若い頃は「街はステージ」という感じで、オシャレをして熊本の中心街に行けば何か面白いこと・楽しいことが待っている、そんなワクワク感があったものです。現在、その感覚はずいぶん減ってしまったなと思います。 もちろん交通状況の変化やネットを通した自己表現の普及など、当時と環境が違うので仕方のない部分もあるとは思います。ですが「街」「リアル店舗」が簡単になくなるとは思えませんし、そうである以上、新しい「街の魅力」「ワクワク感」も、工夫次第で生み出していくことができるはず。私は上通商栄会(商店主やビルオーナーによる、商店街環境の維持整備や地域活性化等を目的とした団体)の理事も務めていますので、多くの人・お店と力を合わせ、その一翼を担えたらと思っています。 |
10年前、人生のビジョンを描き出すワークショップに友人と参加した時の写真。左から2人目が長﨑社長。 | ―学生時代の、今に活きる「学び」を教えて下さい。 長﨑 子供の頃から周りに本がある環境でしたから、自然とファッションや音楽、マンガなどいろんなものに興味を持つようになりました。 そして大学で東京へ行くと、熊本では見ることもできなかったお店、商品に触れることができ、とても刺激を受けました。書店にしても「こんな本を扱ったり、こんな面白いこことをやってる本屋があるんだ」と勉強になりましたね。様々なカルチャーに凄く詳しい人もいて、そんな人たちとの出会いからさらに刺激を受け、知識や「ワクワク感」を養わせてもらったと思います。 ワクワクするようなお店・街をつくるには、自分の中にそれがないと始まらないと思うんです。私の場合、何か企画する時に「自分が面白いと思うこと」からスタートするんですが、学生時代のワクワク感がそんな時にも活きているのかな、と思ったりします。 |
長崎書店屋上に見える灯屋。旧社屋の先端部に位置した昭和初期の構造物で、ビル建て替え後も移築・保存されている。 | 気になる人がいたら 自分から会いに行こう ―座右の銘は。 長﨑 座右の銘とは違うかもしれませんが…思いつくのは、「禍福はあざなえる縄の如し(幸福と不幸は、より合わせた繩のように交互にやってくる)」でしょうか。 お店を継いだばかりの頃は、先に言いましたように非常に苦しい、「紙の本は売れない」と言われる今よりも苦しい状況。経営者としての経験も何もない私でしたから、どこからどう手をつければ良いのか、まさに五里霧中という感じでした。 それがどうにかこうにか、自分なりに面白いと思うことを実現してくうちに上向いていきました。ところがそれで有頂天になっていると、また悪い状況になったりするんですね。ですから何ごとにも過度に一喜一憂してはいけないんだな、大きなビジョンを抱きつつも、足元を見つめてことを進めていかなくては…そんな実感があります。 |
長﨑
何がしか自分が面白いと思う、興味が持てるものを見つけて、それを掘り下げていくということをしたら良いのじゃないか、と思います。
そしてわからないことがあったら、知っていそうな人に聞く。それが遠くにいる人なら、自分で連絡してアポを取って会いに行く。実際私も、県外の気になる書店にメールや電話をして、訪問し勉強させていただいたことがあります。
そうやって好きなことや興味があることを入り口として自分からどんどん動いていけば、視野も世界も広がり、知識やスキルもしっかり身についていくのではないでしょうか。そしてそうした経験が、皆さんの未来に役立つのではと思うんです。