【プロフィール】
1978(昭和53)年1月6日熊本市生まれ。九州女学院高校(現ルーテル学院高校)-オーストラリア国立シドニー大学卒業。2011年に株式会社セルモ代表取締役社長就任。熊本経済同友会の少子化対策・女性活躍委員会委員長も務める。
若者へのメッセージ
「未来を見つめ、多くの人に会い、自身を成長させよう!」
工夫とアイデアで難局を切り抜け、成長へ
T1park記者 貴社の近況を教えてください。 岩上 弊社は1968年の創立以来、結婚式や葬儀をはじめとした冠婚葬祭業を通して、たくさんのお客様の人生の節目に寄り添ってまいりました。昨年はコロナ禍で結婚式や葬儀を控えられるお客様が多く、前半は業績が低迷しましたが、結婚式や葬儀において様々なコロナ対策の工夫をしたり、施設規模が比較的大きな当社の葬儀場でも小さな家族葬にも対応できることを発信したりしたことで、後半から業績は少しずつ回復。現在はコロナ前の水準に戻りつつあります。また、2月には八代市鏡町に『玉泉院 鏡会館』をオープンし |
加えて、今年は新たな分野へもチャレンジします。30〜40代のお客様へのサービス提供を目的とした複合施設のオープンです。子供たちの遊び場(プレイランド)、お母さんたちが集えるカフェ、子供たちを撮影できる写真スタジオ、お母さんの癒やしの場となるエステを備えた施設で、熊本市中央区帯山に建設中。11月19日オープン予定です。冠婚葬祭は一生に何度もないため、当社とお客様との接点は限られていましたが、日常で「セルモとの縁があって良かった」と思っていただける付帯サービスを広げていきたいと考えています。
新しい取り組みとしてはもう一つ、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化もあります。先端IT技術を駆使し、システム開発なども行うことで仕事の効率化や生産性向上を目指しているところです。同時に人材育成にも力を入れ、来年は人材育成課という部署を新しく立ち上げたいと思っています。リアルとデジタルを棲み分け、バランスを取りながら会社を成長させていきたいと考えており、その取り組みに向け私自身もワクワクしているところです。
ライフデザインに取り組もう!
T1park記者 今後、力を入れていきたいことは。
岩上 事業とは直接関係ないのですが私のライフワークとして少子化問題に取り組んでいけたらと思っています。ありがたいことに本年度、熊本経済同友会の少子化対策・女性活躍委員会委員長を拝任させていただき、1人の女性、母親、社会人として、改めて人口問題はすごく重要なことだと考えるようになりました。答えは一つではありませんが、私なりに感じることは〝教育〞って大事だなーということです。これは学問のことだけを言っているのではなく、生き方、ライフデザイン、政治、経済、お金の使い方、体のことなど、様々な面での教育を指します。現在の日本は、自分がより幸せに生きるために必要な知識や考え方の教育というものが平均化されていないと思うからです。最近では〝親ガチャ〞という言葉がありますが、親御さんの教育環境や考え方の質が、お子さんの考え方にも色濃く影響を与えると思いますし、子供たちに将来の選択肢をいっぱい用意してあげることが、大人がやらないといけない事だなと思うようになりました。そして、若い人たちが〝ライフデザイン〞というものに触れられる機会をたくさん創出できればいいなとも思います。
先日、大学生を対象にライフデザインのセミナーに行ったとき、私は冒頭、「皆さんはどうやって死にますか?」という言葉を投げかけました。というのも、若い人たちは就職や卒業、恋人のことなど〝今〞のことしか見ておらず、自分が死ぬことまでは考えていません。続けて、「家族に囲まれて死にたいと思った場合、その家族はいつ作りますか?」と質問し、例えば30 歳までに子供がほしいなら、何歳までに妊活を、何歳までにパートナーとの出会いを…と考えていくと、ある程度リミットがあることが分かってきます。すると「意外と時間はないんですね」という声が大学生たちから返ってきました。そのような〝気づきの場〞を、私個人のライフワークとしてこれからもつくっていきたいと考えています。結婚する、しない、子供を産む、産まないは、本人の生き方の選択肢なので自由です。大事なのは『未来を想像して希望することが希望するタイミングで叶うか』だと思います。未来は自分でつくるものですから、若い人たちには是非ライフデザインという概念を知ってほしいなと思っています。
たくさんの人に会うことが自分を知ることにつながる
T1park記者 学生時代の、今に活きる「学び」を教えてください。
岩上 私は高校に入学する前から、将来は海外で生活したいと思っていましたので志望大学の決定や願書の取り寄せなど留学に必要なことを自分で調べ、逆算していつまでに何をしなければいけないかを確認して準備し、オーストラリアへ留学しました。
当時も今も、留学を経験して本当に良かったと感じています。英語をはじめいろいろなスキルを得たこともプラスになりましたが、それ以上に、日本という枠から出て工夫とアイデアで難局を切り抜け、成長へ物事を客観視することを学べたことが大きな収穫でした。私は高校卒業後、世界の宗教や文化の違い、社会背景の違いなどを全く知らないまま外国へ行き、そこで初めてそのような違いを知ることになりました。そして自分が置かれた立場を、今までよりもっと俯瞰して見ることができるようになりました。その結果、世の中にはいろいろな人がいて、答えは一つではないことを学びました。
日本では一般的に「決められたことを決められたようにやる」ことが長く求められてきたように思います。時期が来たら高校受験と大学受験があり、サークルに入って就職活動、みたいな流れが決まっていますよね。それが正しい道のような認識があり、それから外れると「道から外れた」みたいな印象を持たれる。でも、海外に出ていろいろな人と知り合ったことで、生き方、やるべきことは人それぞれあることを学びました。おかげで考え方の違う人に出会っても、留学前の私なら「別の人」と拒絶していたでしょうが、「どうすればうまく共存できるか」と考えるようになりました。そして、その考え方は経営者になった今も大きな力となっています。
機会があれば若い人たちには世界に出てほしいと思います。しかし、様々な事情で実現は難しい場合があるかもしれません。それでも、いろいろな人に会うことはできると思います。嫌いな人や興味のない人とも、まずは一度会って、その人はどんな考えの人なのか感じることから始めるのも良いでしょう。他者との会話や経験は、自分を知ることにもきっとつながります。
心揺さぶられる経験が自身の成長につながる
T1park記者 座右の銘は。
岩上 「継続は力なり」。仕事でもプライベートでも、この言葉を大事にしています。何事も継続しないと意味がない。継続することではじめて力がつき、データが集まり、いろいろな気付きが生まれるからです。仕事で何かアイデアが思い浮かんだ時にも「これは継続が可能か」という視点で見るようにしています。アイデアやフットワークの軽さも大事ですが、そこに継続が加わることで深みが出てくると思います。
T1park記者 若者へのメッセージをお願いします。
岩上 是非いろいろな経験をしてみてください。経験はどれだけあっても損しません。そして、様々な人に会い、五感を意識して感性を磨くことにも取り組んでほしいですね。映画を観るでも、コンサートに行くでも、恋愛をするでもいい。喜ぶことも傷つくことも含めて、心を揺さぶられる経験をたくさんしてほしいと思います。その経験はきっと自分を知ること、そしていろいろな人との付き合い方を学ぶことにつながることでしょう。