近年の「花の甲子園」では全国大会で優勝2回!九州大会で優勝4回!!
―熊本高校華道部の近況を教えてください。
1950年に創部し、今年で73年目を迎えます。私は38年前に外部講師に就任し、毎週月曜の放課後に生徒たちを指導しています。部員は現在、2年生3名、1年生1名の計4名です。2年ごとに開催される総文祭、熊本高校の文化祭、熊本いけばな芸術展の学生部門などで作品を発表しています。礼式生けという古式にのっとり、礼儀正しく花を生ける作法も体験しています。
また、3人一組で花を生けるコンクール「花の甲子園」には2015年から連続で出場中です(コロナ禍で一度休止あり)。その間、九州大会で4回優勝し、全国大会で2回優勝することができました。
とはいえ、部員は高校から華道を始めたという生徒がほとんどです。感受性の豊かな時期に、四季折々の草木に触れ、そして草木も人間も天地の間に生を受け、共に生きているという共感がいけばなの原点であることを認識してほしいと願っています。
―今後、力を入れていきたいことは。
いろいろな草木との出会いが、いけばなの基本です。そこで、生徒たちが自然の中にある植物を見る機会を創出できないかと考えています。以前は華道部の生徒たちと九重山に登ったり、高森町の野草園に行ったり、古代の森(山鹿市)の蓮や仰烏帽子山(のけえぼしやま・球磨郡)の福寿草を見に行ったりしていました。そういう自然の中にある花の姿や、雨露風雪に耐えて咲く花の命を見て感動する心を持ってほしいと思います。
ものづくりの出発点は「感動」それを素直に表現しよう
まずは「感動」を大切にする心持ちです。いけばなの出発点は、花に感動すること。いろいろな花に出会い、観察することで感性は磨かれていきます。作品というのは、感動が始まりです。それはいけばなだけでなく、他の伝統文化やスポーツにも共通することではないでしょうか。形として現れる以前の心の動きこそが、いけばなの始まりであると考えています。いけばなの技術よりも先に、そのような心持ちを学んでほしいと思いながら指導しています。
次に、「感動したことを素直に表現する」ことも学んでほしいと思います。歌も音楽もスポーツも、すべては表現であり、その根底に感動があります。その感動を素直に表現できるかどうかが重要なのです。「花の甲子園」では、作品を作るだけでなく、花に対する想いを3分間でプレゼンテーションしなければなりませんので、自分の想いを的確に表現する力が必要です。それに、生徒たちは卒業してから社会に出て、プレゼンテーションをする機会もあるでしょう。華道部での活動が、その力を養う一助になれば嬉しいですね。作品とは説明がいらない世界。考えれば考えるほど感動が薄れていくということもあります。生徒たちには、感動した気持ちを素直に表現してほしいと願っています。
「出会い」と、その時の自身の気持ちを大切に
―学生時代の、今に活きる「学び」を教えてください。
人生には〝人との出会い〞だけでなく、いろいろな物との出会いにあふれています。その中で自分を支えてくれるものがあることはとてもありがたいことです。 高校時代で印象に残っているのは、「小諸なる古城のほとり」という島崎藤村の詩です。教科書に載っていて、なぜか心に残り、今も暗唱できるほど覚えています。大学時代は、同志社の創立者・新島襄の漢詩「真理似寒梅 敢侵風雪開」や、学内に建つ「良心の碑」に刻まれた言葉「良心之全身ニ充満シタル丈夫ノ起リ来ラン事ヲ」が心の支えになりました。また、茶道部に入部したことで、明治の美術運動家・岡倉天心の「茶の本」や、仏教学者・鈴木大拙の「禅と日本文化」といった書物に出会い、それらも私を支えてくれました。振り返ると、そういったものが私の生き方を決めてくれたのかもしれません。学生時代にそういうものに出会えて本当に良かったと思います。 よく「一期一会」という言葉が使われます。「一期」とは人間の一生のこと。「一会」とは、ただ一度きりの会合を表しています。それぞれがたった一度きりのもの。その一時を大切にしながら生きていくことを示唆した言葉です。この言葉は誰かとの出会いばかりを意味しているのではなく、その時々の自らの心持ちにも目を向けることを説いていると考えています。今の自分自身の心としっかりと向き合い、そして行動に移していく。そんな心掛けを持つことが大切であると思います。そしてこれは、先ほどお話した「素直に表現することの大切さ」にもつながります。 |
高校2年時の関西・関東への修学旅行の写真。皇居の二重橋にて
大学生の頃。同志社の設立者・新島襄の墓碑を訪ねて
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「時間とは、生きることそのもの」。自分たちは時間というレールの上を歩いているようなものです。生きるとは今そのものですから、目の前の事に集中することが今を大切にすることであると思っています。
華道部の生徒たちにも時間の大切さを伝えており、生徒たちはそのことをよく理解していて、無駄な時間が生じないように自発的に活動の準備をして練習に励んでいます。スポーツにおいても準備を生徒たちが率先してやっているところはレベルが高いですよね。時間の大切さを理解しているからだと思います。
常に感動する心を
持ち続けよう
脳の大成者である世阿弥の言葉「初心忘るべからず」への私なりの解釈を、皆さんへのメッセージにしたいと思います。この言葉は「初心に還ることの大切さ」ではなく、「初心を常に持ち続けることを忘れるな」と言っているのだと思います。私が大切にしてほしい初心は、「感動が表現の原点」であるということ。常に感動する心を持ち続けてほしいですね。
(インタビュー/2023年6月12日取材)