―熊本高等専門学校の近況は。
熊本高等専門学校(熊本高専)は熊本と八代、2つのキャンパスがあり、熊本に電気電子情報系の3学科、八代に機械・土木建築・生物化学系の3学科、合計6学科で構成されています。コロナ禍の3年間、離れた両キャンパス間の対面交流が難しかったため、昨年度から交流の機会を増やそうとしています。
TSMCの熊本進出で半導体人材育成の必要性が高まる中、これまでの国内産業への貢献が評価され、高専全体に半導体人材育成の要請がありました。現在、佐世保高専や産業界と連携協力し、全学科の学生が半導体工学概論を受講できる環境を整えました。熊本高専と佐世保高専でスタートした取り組みを今後、九州や北海道、そして全国の高専に展開していく計画です。
その他、本校では専門だけでなく、基礎的な教養、人間力も身に付けてもらうため、リベラルアーツ教育にも力を入れています。また今年は、まず熊本の2学科でシンガポールへの研修を再開することができ、国際交流活動が活発化しています。さらに、ロボコンなどの高専の大会だけでなく、大学生や一般の人も参加する各種大会に出場しています。例えば、ジャパンスチールブリッジコンペティションで3位入賞やハッカソンSPAJAM2023の予選で最優秀賞を受賞するなど学生が活躍しています。
マインドセットで、ファーストペンギンを後押し
ー今後力を入れていきたいことは。
アントレプレナーシップ教育に力を入れていきます。そうはいっても起業することだけが目的ではありません。特に高専の場合、若い学生さんが多く、一番重要視するのは「マインドセット」です。すなわち、いかに自分自身の安心領域の枠を越え、「カンファタブルゾーン」を広げてチャレンジするかが大切です。そのためにも、マインドセットが入口であり、まずは小さいことでもなんでもいいので、新しいことにチャレンジする気概を持つことが重要です。
本校では、自由にディスカッションできるコワーキングスペースとファブラボ(試作品製作ラボ)、カンファレンスルームといった学生がワクワクするような施設整備を進めていきます。
そして、ハード面以上にソフト面が重要ですので、今年度から「熊本高専ファーストペンギンズプロジェクト」を開始しました。このプロジェクトは、新しいことにチャレンジする学生を一人でも多く輩出することを目指し、学生を後押しする取り組みです。教員もファーストペンギンとなり、学校が一体となってサポートしていきたいと考えています。プロジェクト開始に先駆けて、イメージキャラクターのデザインを学生さんから募集。選ばれたキャラクターは
今後プロジェクト周知やさらなる機運の醸成に活用していきます。
また、技術を社会に実装するプロジェクトにも取り組んでいます。介護福祉分野で、学生が支援学校を訪ねてニーズを調査し、AT(Assistive Tehnology)を活用しながら技術の社会実装を目指します。今後もこのPBL(課題解決型学習)を通して、ATの開発と社会実装を広めていくとともに、学生のレベルアップを図っていきたいと考えています。これもアントレプレナーシップ教育に通じるものがあります。
ー学生時代の、今に活きる「学び」を教えてください。
一番大事にしてきたことは、何事も自分の頭でひたすら考えて、納得することです。受験勉強にしても、習ったことをそのまま使って試験はパスできたとしても、自分で考えなければ、その先は伸びません。
そして、物事をゼロから考えることです。何かが決まっていると、その先は論理で考えることができますが、なかなか物事の起源を考える人は少ないように思います。最近どちらかというと、手段や方法ばかりが議論されることが多いように感じます。ゼロは論理では決まりません。そこを考えること、つまり、「そもそも」何が目的なのかということをじっくり考えることが大切です。数学者の藤原正彦さんも著書「国家の品格」の中で、一番のスタートラインを決めるのは〝情緒〞だと言っています。物事をきちんとゼロから考えて、納得することが私にとって今に活きる学びだと思います。
また、経験から話すと、大学院博士課程3年目の秋に、突如、研究室の教授から学位論文の初校を2週間以内で提出するように言われまして、教授のチェックも考えると実質1週間で書き上げなければならない状況に直面しました。あわててその日から徹夜になりました。おまけに、その1週間後には大学院の駅伝大会もありました。すごく大変な経験を乗り越えると、それが自信につながるものだと実感しました。
▲ 大学時代の一枚。徹夜明けの製図室にて。(前列右)
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魂が籠っていないと人は動かない ー座右の銘は。 特にありませんが、敢えて言うなら「一寸の虫にも五分の魂」ですかね。人は気持ちでしか動きません。いくら命令されても、結局、人は気持ち、つまり、魂が籠っていないと本当に動きません。研究者をやってきましたので、大きなプロジェクトにかかわらなくても、あるいは大研究室を運営していなくても、自分のアイデアで負けない研究をしようという意識は常に持っていました。 ー若者へメッセージをお願いします。 将来の進路を決める上で、焦る必要はありません。人によって成長の段階は違います。周囲に惑わされず、自分でじっくり考えて、決断してください。そして、決断したら、その道でしばらく本気で頑張ってみてください。どうしてもだめな時は方向転換すればいいわけです。まずは頑張ることです。そうすれば本当の楽しさが見えてきます。 |