玉名女子高校 吹奏楽部 顧問 米田 真一(よねだ しんいち) 【プロフィール】 1969年6月17日生まれ。52歳。八代市出身。 宇土高校-武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科(ホルン専攻)卒。大学在学中、故 田中正大(元NHK交響楽団主席ホルン奏者)に師事。 1992年より玉名女子高校に音楽科教諭として着任、同時に吹奏楽部顧問を務める。以降、全日本吹奏楽コンクール出場10回(金賞受賞7回)、全日本マーチングコンテスト出場19回(金賞受賞17回)、全日本アンサンブルコンテスト出場11回(金賞受賞2回)。全日本吹奏楽連盟からの特別表彰4回(うち一回は2011年、3年連続全日本吹奏楽コンクール出場を果たしてのもの)。 指導者個人としても2010年文部科学大臣優秀教員表彰、熊本県私学振興大会文化活動指導者表彰。熊本県吹奏楽連盟副理事長。『玉名女子アンサンブル(同部卒業生による吹奏楽団)』の音楽監督も務める 3大大会で最高賞受賞の実績 今年も2大会で全国進出を決めた ― 玉名女子高校(以下、玉女)吹奏楽部の近況を教えて下さい。 やはり新型コロナのため、昨年は多くの大会が無くなりました。そのため吹奏楽連盟が主催する3大大会のうち2大会は開催そのものがなく、当然参加することもできませんでした。 ですがその前年、2019年における3大大会での実績を言いますと、『全日本吹奏楽コンクール』および『全日本マーチングコンテスト』で金賞(全国最高賞)を獲得。なお『全日本アンサンブルコンテスト』は昨年も開催され、こちらでも金賞を頂いております。 |
ですが最近は、演奏の機会も増えてきています。土日は毎週、合同練習でスケジュールが埋まるようになり、おかげで休みが無くなりました(笑)。だけどいろんなところから、休日にわざわざ本校まで来てくださるわけで、ありがたいことですよね。
3大大会も、うち2大会はすでに開催中です。吹奏楽コンクールは7月の県大会を経て、8月の九州大会で金賞を獲得、10月24日の全日本コンクールに出場予定です。マーチングコンテストは9月の県大会で金賞、10月の九州大会で満点の1位となり、こちらも11月の全日本大会に、九州代表として推薦され参加することとなりました。そして全日本アンサンブルコンテストも、例年同様3月に開催予定です。
10月のように参加期間がほぼ重なる時期もあり、なかなか大変ではあります。ですが開催そのものが無かった昨年に比べると、やはりありがたいことと思っています。
このメンバー最高の演奏を
まず言いたいのは、「音楽は、勝ちにこだわるものじゃない」ということ。それよりも「自分たちにしかできない、このメンバーでできる、最高の演奏を目指そう」といつも言っていますし、生徒たちも同じ気持ちのはずです。
だから全国大会を控えている今も、「勝つためにああしよう、こうしよう」とは考えません。全国大会であれ町の小さな演奏会であれ、いつも一期一会の気持ちで、自分たちの目指す「玉女らしい音楽」を精一杯届けること。そして自分たちの思いが聴いてくださった方々に伝わり、「音楽って素敵だな」と実感していただけること。受賞はあくまでその結果であり、これまでもこれからも、その実現に力を入れていくだけです。
ちなみに「玉女らしい音楽」の特徴ですが、「人が歌っているよう」と形容されることがあります。音楽表現の最高の形は合唱だと思っているんですが、それほどに「人の歌」というものは、音楽にとって重要なもの。だから私たちは、楽器の音1つひとつで言葉を奏で、楽器で文章を作ろう、演奏で詩や文学を表現しようと思っています。そんな、言わば「有機的な音楽の演奏」に磨きをかけることが、今後力を入れていきたいこととは言えるかもしれません。
第一に「音楽を楽しむ力」、これを育んで欲しい。楽しんでこそ良い演奏ができる、そして良い人生につながると思っています。
次に、本当に才能のある子はやっぱり凄い、でも「才能のない子も、頑張り続ければ2番にはなれる」ということ。僕はこの言葉を他の先生から聞いて、なるほどなあと思ったものです。そもそも2番と言っても、それって凄いことですよね。勉強でもスポーツでも芸術でも、全国で2番なら十分一流です。努力すれば誰だって、そうした2番手にならなれる、それぐらい「“努力し続ける”って大切」ということですね。
人のせいにしない
高校1年生の時、熊本県吹奏楽連盟選抜のヨーロッパ遠征にて | ― 学生時代の、今に活きる「学び」を教えて下さい。 宇土高校時代は吹奏楽部で部長を務めましたが、当時は部の運営を95%、生徒が担っていました。練習場の管理から、演奏会を開催するためのお金の管理、会場確保の交渉に至るまで。それは大変でしたねと言われるかもしれないけど、かえってそれで、「人間として成長した」という実感があります。 対して今は、周りの大人が全部やってくれるでしょう。それってどうなの?と思うわけです。死ぬまで温室にいられるなら良いけど、世の中そうじゃないですよね。だから生徒たちによく言うんです、「普通、親が先に死ぬんだよ。そしたらあなた、そんなんでどうやって生きていくの?」って。また、こうも言います。「人に寄りかからない、人のせいにしない」。私の高校時代と同じように、少なくとも教え子たちには、「自分のことは自分でやる」ことを経験して欲しい。そして、何よりも「自立」してくれること、これが教育者としての私にとって、最終的な目標です。そんな「教師としての私」を作る上で、高校での経験はやはり、深く根を張っているのかもしれませんね。 |
私たちおじさんは、新しい時代の流れに取り残されないよう、もっと柔軟性を持たなくてはと思っています。音楽であれ何であれ、時代に乗るってことはすごく大事だと思いますから。
一方で若い方々は、この「柔軟性」は十分に持っている。むしろ持ちすぎていて、逆に伝統や過去のものを、ないがしろにする傾向があるようです。だけどどれだけ技術が発展して時代が変わっていっても、「変わらない本質的なもの」ってあるはずなんですね。「不易流行」の「不易」のところです。例えば人と人との関わり方、基本的な挨拶や礼儀、そうしたところはちゃんと大事にして欲しい。それも付け焼き刃ではなく、体に染み込ませて欲しい。そうして「不易」を大事にできれば、きっと持ち前の柔軟性を活かして、より「新しく、楽しく、素敵な自分」を奏でられるはず。そう期待しています。