【プロフィール】
1965(昭和40)年7月27日生まれ 松橋町(現・宇城市)出身。松橋中―帝京高校―筑波大学体育学部卒。 サッカー選手として少年時代より将来を嘱望され、世代別日本代表(高校選抜、ユースなど)で活躍。帝京高校2年時にインターハイ優勝、3年時には主将として全国高校サッカー選手権で全国制覇を成し遂げる。筑波大学でも主将を務め、副主将の長谷川健太(現・J1ガンバ大阪監督)らと共に4年ぶり6度目の関東大学リーグ制覇に貢献(元日本代表の中山雅史や井原正巳は2年後輩)。大学卒業時、Jリーグの前身にあたる日本サッカーリーグのクラブからオファーを受けるがこれを固辞し指導者の道を歩む。これまで多くのJリーガーを輩出し、2006年のW杯ドイツ大会には巻誠一郎選手、土肥洋一選手を日本代表として送り出している。日本高校選抜の監督を務めるなど多方面で人材育成に尽力する。その教育力には全国から注目が集まり、学校や企業からの講演をこなす。体育教師。J2ロアッソ熊本持株会理事。 若者へのメッセージ 「24時間をデザインする」 |
その時の1回戦の記録が19-0で勝利したのですが、熊本商業はその5年前(着任前)に当時の準優勝チーム(八代高校)に0-17で大敗したワースト記録がありまして。それからすると5年間で36点をひっくり返すことができました。
当時スクールウォーズというテレビドラマがあり、挫けそうになると山下真司が選手に声かけているのを思い出し、俺も諦めちゃいけないと自分を奮い立たせ、随分ドラマに感化されながら戦っていました。
大津高校での22年間でサッカー部を全国区のチームに育てられています。主な戦績を教えてください。
平岡監督
全国大会で言えばインターハイが今度で17回目、選手権は16回出場しています。大津に来て最初の3年間はチームを残してきた熊本商業に勝てませんでした。その子たちが「今日頑張ることが平岡先生への恩返しです」と言って頑張るんですよ。最初は「そうだよな。簡単には負けられないよな」と思って見ていたのですがしばらくすると大津にも愛着が出てきて、そろそろいいんじゃないかと。おかげさまで大津にいい選手が入ってくれて次の年の1年生が3年生になる時に初めて勝つことができ、そのころからうちが勝ち続けるようになりました。
T1park記者
プロの世界で活躍する選手も数多く輩出されています。 平岡監督 現在Jリーガーとなったのが41名。静岡の藤枝東高校に次いで全国の県立学校で2番目の実績だと思います。2006年のW杯ドイツ大会には巻誠一郎、土肥洋一が日本代表として参加しました。2016年にはブラジルリオデジャネイロ五輪の開催が予定されていますがその五輪メンバーにも鹿島アントラーズに入団した植田と豊川という選手が選ばれています。それからすべて大学経由(筑波大、法政大、中央大など)ですが、今年の4月には同級生が一度に7人Jリーガーになりました。県立の1学校からW杯メンバーに2人同時選出、五輪メンバーに2人同時選出、7人同時のJリーガー誕生というのはおそらくそれぞれ日本で初めてのことだと思います。 |
先日の県高校総体では見事優勝されました。サッカー部について教えて下さい。
平岡監督
ありがとうございます。部員は138人です。西日本の県立高校で一番多いと思います。140人近くいるとみなさんAチームからFチームくらいまであると思われますがチームはAとBしか作りません。それには理由があって選手たちが地元に帰り恩師や周りの人に近況を聞かれた際に「今Bで頑張っています」と答えると「おおっ頑張ってるな」となるじゃないですか、みんなFまであると思っていますから。
選手の引き抜きはしないという方針をお持ちとのことですがどのように選手を集めていらっしゃるのですか。 平岡監督 言葉が適切かわかりませんが、広告を出さずに行列ができるラーメン屋を目指しているので学校に行ったり試合を見に行ったりということは一切やらないです。そのかわり練習参加を自由にしていますので、うちのサッカーを体験したらまた行きたくなるようなメニューや環境を用意しています。例えば、練習に参加した子は全部大津のウェアに着替えさせます。うちの選手が来ているウェアを身につけ練習に参加する、そうすると間違いなくまた来たくなると。ですから口コミだったり、新聞に戦績が出たり、高校選手権でテレビに出たりと、私達はアマチュアですけどプロ意識は必要なのでそこにこだわりを持ってやるというのがうちのスタイルです。 |
子供たちの成長で大事なポイントはなんでしょうか。
平岡監督
競争がきちんとできる平等が重要だと思います。ですから、頑張った子がレギュラーになれる、そういう競争性をしっかり見るために「入り口の平等性」を保っています。あとは保護者。私は保護者と一切会いません。それは選手を起用した時に「あぁ、あいつの父親と監督仲いいもんな」「いつもメシ食ってるよな」というようなことがあっては本当の本人の努力が評価されません。ではどうしたら平等が保たれるかというと一切会わないことです。お中元やお歳暮もすべて送り返します。贈りたくても贈れない人もいるし、贈ったからどうだというのはアマチュアイズムの世界では絶対あってはいけないことという話を総会の時にきちんと話をさせていただきます。
練習時間が短いですね。
平岡監督
これは私が感じていることですが、人は終わりを作らないと途中を頑張れません。100分という時間を作るから途中を頑張るんです。サッカーの試合も前半45分、インターバル15分、後半が45分と終わりがあるから頑張れる。ですから終わりをコントロールすることで途中を充実させたいというのがひとつ大きなポイントですね。
実際練習で体を動かすのは100分ということで普段の生活の過ごし方も重要になります。
平岡監督
うちは課題発見能力と合わせて自主性を尊重していますが100分の練習のあとに長い自主練を許すかというとそれはNGなんです。最大20分です。なぜなら「じゃあなんで100分間でもっと全力を出さないの?」ということ。試合は90分なのでその中で完全燃焼しなければいけません。そのトレーニングを毎回やっていないとサッカーって勝ち続けることができません。だから練習が足りないからって終わってからもっと練習をというのは絶対させないですね。残ってやるのは美談じゃありません。トレーニングが終わったらシャワーを浴びて、帰って、食事して、睡眠をとる。ただし、朝はフリーです。
T1park記者
朝はトレーニングをされているのですか。 平岡監督 私はいつも5時半に学校にきますがその時間にはもう選手がいます。選手が自主的に集まっているのですが、1番うまくなりたいと思っている子が朝からくるわけですからそこにいる人間を見ないと選手は決められません。しかし、すぐレギュラーになる子もいればそうでない子もいるわけです。保護者からすれば頑張っている我が子の姿を見ているので「こんなに頑張っているのになぜ出れないんだ。監督はちゃんと見ているのか」となってしまうものです。だから、「ちゃんと見ているの?」と言われないようにちゃんと見ているんです、一番最初にボールを出す人間を。それをやれば保護者も納得してくれます。
T1park記者
5時半から朝練習をするということで早寝早起きの習慣も身につきますね。 平岡監督 そうなると余計なことをしないですよね。今の若い子たちが夜遅くまで携帯をさわっているということも優先順位が違いますらね。優先順位をコントロールできることもデザイン力。今何をすべきかということ。優先していくことの重要性は上に行けば行くほど、2年生から3年生に上がっていく中でずいぶん変わるのかもしれないですね。 |
T1park記者
部訓やモットーはありますか。 平岡監督 大きなテーマは日本一の集団になって全国を制覇すること。それに加えてもう一つ毎年変えるテーマがあります。今回はうちのメインスポンサーであるPUMAの頭文字をとって、今年の大津高校サッカー部=進化するブルー軍団は、P=パッション(情熱)、U=ユニット(団結力)、M=メイチャー(成熟)、A=アチーブ(達成)、これらを3年間で自分の中に落としこんでいくというコンセプトを立ち上げています。それから「正しい努力を継続する」という言葉を使いますが、ただ頑張るだけでなくきちんと24時間をデザインしながら、自ら課題を発見し自ら解決するという力を身につけること。これができれば社会に出てからも可愛がってもらえます。 |
T1park記者
これから中学生を高校に送り出していく親御さんさんに、中学までにこういうところは子供に教えておいてほしいと思われる点は。 平岡監督 サッカーが高校でよくなるためには人間力ですね。自分中心ではなくて周りを見ながら行動できること。そしてコミュニケーション能力。これはもうスキルだと思うんですけどきちんと自分の言葉で表現できること。それがないといくらいいトレーニングをしても聞いたことに対して答えられない。何を考えているか分からないという時間を過ごすともったいないです。だから目と耳を鍛えることはとても重要です。目はものを移す道具で耳は音を捉える道具じゃないですか。要は心だったり脳みそだったりが大切で。なぜ勉強が大事なのかというと、その脳を鍛えることによってサッカーで見なきゃいけないものや聞こえなきゃいけないものに広がりを作ってくれるんだと言うんです。サッカーが上手くなるには勉強しなければいけない、勉強することによってサッカーもうまくなる。分かるな、勉強の重要性と。脳みそを使うことはすごく重要です。見る力と聞く力、そこから目配り、気配り、心配りが生まれる。パスやドリブル、フリーランニングまで含めてすべて気を使わないとできないのがチームスポーツです。だからサッカーの技術が、戦術がというのは次のレベルでそのきちんとした目と耳を持っている考える力を持っている、話す力を持っている、というものが元々ある子は大丈夫ですね。 |
T1park記者
校内に「凡事徹底」と書いてありますが、実は監督が書かれたそうですね。 平岡監督 そういう言葉も使わせてもらいながら当たり前のレベルをいかに上げていくことがポイント。 うちの生徒たちは誰が決めたわけでもなく最寄りの駅とか駅から学校までのゴミを拾います。大きな大会の前は前日の練習が終わってから100何十人いますから、グループに分かれて町内のゴミを全部拾います。私はそんなこと全然知らないのですが、人伝いにこうやって部員がゴミ拾いをやっていましたよと聞くんです。野球部の試合の応援に行った時も藤崎台球場を綺麗にしたといってそれがニュースになったりしたりしました。 T1park記者 ワールドカップでも日本人が会場のゴミ拾いをして話題になっていました。 平岡監督 ああやってゴミを掃除する子たちが増えればゴミを捨てる子たちももいなくなります。物を拾える奴は絶対捨てませんから。ですからどうやって学校を綺麗にしていくか、心を整えていくかってことはそういった部分の全体的視野を広げていくことは大きいかもしれませんね。その中の中心が凡事徹底。当たり前のことをきちんと当たり前にやるということですね。 |
T1park記者 教えてあげられることは限りがあるけれども、礎となるものを作ってしまえば可能性は無限に広がるのですね。 平岡監督監督 そうです。だから関わる大人は子供たちの未来に触れているという深い自覚を持たなければいけません。その深い自覚と子供たちとの信頼関係を大前提として、人があっと驚くようなことが実現できる。それはこの学校の校風の中でしかできません。人が真似しようと思っても中々できないことを凡事徹底で当たり前のレベルを上げながらいとも簡単にできるのが大津高校、大津高校サッカー部です。そういう部分で保護者から一番安心感のある学校と信頼され、田舎の進学高ながらずっと継続して1千人の生徒がいるのだと思います。他の地域を見ると定員割れのところも多いようですのでそういう意味では随分信頼されている学校だなという風に思います。 T1park記者 ありがとうございました。 Writer T.Nakahara |