夢を叶えるための機会を
より多くの学生に提供したい ― 熊本県が学生に対して今、取り組んでいることを教えてください。 蒲島 ご存知の通り2016年に熊本地震があり、復興への道半ばで今年は新型コロナウイルス、そして7月豪雨。熊本はトリプルの災難に見舞われています。特に新型コロナの影響で、学生の多くはリモート講義のため通信料がかさみ、それでいてアルバイトもままならないという事情があります。 そこで県として、困窮した学生に1人あたり、5万円支給する制度を創設しました。制度開始時は家庭等の収入が少ない学生向けでしたが、アルバイト等の収入が減少した学生へも門戸を広げています。県内大学・専修学校および定時制等 |
またもう1つ、『海外チャレンジ塾』というものがあります。これは海外大学への進学を目指す高校生等の後押しをする講座で、受講資格を満たせば中学生でも応募できる上、なんと受講料は無料なんです(WEB講座等による通信料、および会場までの交通費は除く)。
私自身、高卒の農協職員から農業研修を受けるためアメリカへ、そして勉学の楽しさに目覚めアメリカの大学で学んだことにより、世界が本当に大きく広がりました。そんな機会をより多くの学生に提供できればという思いから始めた取り組みです。なお2013年から始めたこの塾は、これまでにハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学など、世界の名だたる一流大への合格実績があります。
東大名誉教授でもある蒲島知事。
任期はなんと2099年まで。 |
「くまもとの夢」を叶え
「県民総幸福量の最大化」を実現 ― 今後、力を入れていきたいことは。 蒲島 知事になる前の私は東京大学の教授でして、長く研究の道を歩んできました。言い換えれば好奇心の赴くまま、自分のために生きてきたという感じもします。 しかし、知事になってからは、政治学者としての経験などそれまで自分が得てきたもの全てを投入し、熊本県民のために生きようとやってきましたし、今後もそのつもりです。例えば震災における「創造的復興」。象徴的なものとして、大きな被害を受けた『阿蘇くまもと空港』をただ元に戻すのではなく、前より良い形にしようという「大空港構想」が具体化してきています。空港そのものだけでなく鉄道延伸によりアクセスを改善するとともに、空港周辺地域において、熊本 |
このように「くまもとの夢」を叶え、今の熊本はもちろん50年後、100年後の発展にもつながるレガシー(遺産)を残すこと。それにより知事としての夢である「県民総幸福量の最大化」を実現したいと思っています。
ハーバード大学院の修士学位授与式時の一枚。
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逆境の中にこそ夢がある
人生成功の鍵がある ― 学生時代の、今に活きる「学び」を教えて下さい。 蒲島 私は24歳で大学生になりました。それもネブラスカ大というアメリカの大学ですから、英語は本当に勉強しましたね。ですが実は、入試では不合格。最初は仮入学という形により、一学期だけ学ぶチャンスを頂けたんです。 アメリカ生活を農奴のように辛い研修から始めた私ですから、比べると勉強というものはラクだし、面白くてたまらない。おかげでオールAの成績を頂きました。オールAを取ったのは農学部の学生375人中10人だけでした。するといきなり特待生として正式に入学できることとなり、授業料も免除。多方面から奨学金も受けられるようになりました。 |
また、読書が好きだった私は『プルターク英雄伝』の影響などもあり、昔から政治に興味がありました。そのため学んだこともない政治学を、せっかくなら超一流のハーバード大学で学びたいと思うに至り、結果、奨学金付きで同大ケネディスクール(公共政策大学院)の博士課程に入学することができました。
それというのもネブラスカ大の恩師であるジーママン教授が、強力な推薦状を書いてくださったおかげ。また仮入学の時にしても、異国の地で学び続けられたことにしても、本当にいろんな方からお力添えを頂きました。そうした経験から、「失敗しても頑張り続ければ、助けてくれる人がいる」ということを学べたと思います。
そもそも鹿本高校時代は、本当にビリに近い成績だったんですよ。しかも家は貧しい農家です。それが学者になり、大学教授になり、そして政治家になり…。思い切って一歩を踏み出し、頑張り続ければきっと叶う、つまり「逆境の中にこそ夢がある、人生の成功の鍵がある」ということを身を持って学びました。
「無限の楽観性」「希望」
「友情」を大切に生きて
― 座右の銘は。
蒲島
「皿を割れ」、これは県職員の皆さんにもよく言っている言葉です。割るのが怖くて皿洗いができない、これではダメだと。つまり失敗しても良いからどんどんチャレンジしようというわけです。
私自身、先に話した通り渡米当初はただこき使われる日々、大学を目指しても最初は不合格。もっと遡れば、高校卒業後最初に就職した会社は、わずか3週間で辞めています。そんな「皿を割り続けた」人生ですが、だからこそ多くのものを得ましたし、今の自分があるんだとも思うんですね。
― 若者へメッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、やはり「逆境の中にこそ夢がある」、また「皿を割れ」ということ。また、県庁前に銅像がある『ワンピース』のルフィのように、「無限の楽観性」「希望」「友情」を大切に、目標に向かって生きて欲しいと思います。
私自身、すでに語ったこと以外にも、まだまだ夢を持っているんです。知事として言うと、『くまモン』を海外でも稼ぐキャラクターにしていきたいと。国内と違ってライセンス料を取りますから、大きな収益が見込めます。すでに多くの有名企業とのコラボアイテム等を販売した実績があり、好評を得ています。
そんなくまモンのように、またルフィのように、皆さんが広い世界へ思い切り羽ばたいていくことを願っています。