ベスト8の壁を乗り越える ― オリンピックに挑む抱負を。 日本代表13人中、過去最多の9人が海外でプレーをしており、良い選手が集まっています。監督として、その個々の力を最大限発揮できるようなチームを作り上げていくことが私の仕事です。 水球は以前、オリンピックに出ることが夢だったのですが、リオ五輪、東京五輪と2大会連続で出場しています。今や出場が当たり前になりました。今回の目標は、今まで成し遂げられていなかったベスト8の壁を乗り越えることです。「乗り越えられ ない壁はない」と信じ、結果にこだわっていきたいと思います。 日本水球はパスラインディフェンス戦術という高さだけで勝負するのではなく、スピードを活かしたユニークなプレーで世界からも注目されています。体格が大きい選手だけに有利なスポーツではなく、すばやいテクニックで勝つ日本の水球をさらに進 化させていきたいと考えています。 目標であるベスト8に入るためには、6チームが2グループに分かれてそれぞれ総当たり戦を行い、上位4チームずつが準々決勝に進みます。日本は世界の強豪セルビアやスペインをはじめ、フランス、ハンガリー、オーストラリアと同じ組で、このうちフランスとオーストラリアには過去の国際大会で勝った経験もあり、まずはこの2チームを破ることに焦点を当てて、ベスト8入りを狙いたいと考えています。 |
― 選手に向けて日頃どんなアドバイスを。
今の代表選手たちには、柔軟性と即興力を大事にしろと言っています。柔軟性とはフィジカル(肉体的)な柔軟ではなく、頭の中つまり、メンタル(精神的)な柔軟性のことを意味します。新しい戦術を取り入れていくため、凝り固まった考えではなく、柔らかい考え方で対応することが重要です。
また、即興力とは、ゲームでは何が起こるかわかりません。そこで、言われたことだけをやるのではなく、臨機応変に自分たちで考えて、あらゆる場面で最善を尽くすこととはどんなプレーなのかをいつも考えておくことが大切だと選手たちには伝えています。
― 学生時代の、今に活きる「経験・学びを」を教えてください。
1999年、高校2年生の時に経験した熊本国体が、人生を変える上で一番大きかったと思います。国体に向けた選抜チームのメンバーとして、勧誘されたことが本格的に水球に打ち込み始めるきっかけになりました。
指導者もOBも保護者も熊本国体に向ける熱量がものすごかったことを覚えています。学園大付属高校だけではなく県内から集まった選抜チームで強化練習を重ねていました。なかでも夏休みの合宿練習は、きつかったですね。朝からは基礎練習で12キロメートル泳ぎ、その後にフットワークの練習が1、2時間あり、午後からは水球の攻防を休憩なしで2時間連続やるなど、一日中強度の高い練習をやっていました。全国で一番強い日本体育大学水球部の学生さんも参加してくれて、大学生を相手に猛練習の日々でした。
ちょうど実家がお寺で、境内の大広間に30人ぐらいで泊まり込み、毎日保護者の皆さんが炊き出しをしてくれました。今思えば、その時の練習があったからプレイヤーとしても大きく成長できたと思います。練習はきつかったですが、強くなっていることが実感できていたので、水球を辞めたいと思ったことはなかったですね。
熊本国体では28年ぶりの出場で3位に入賞することができました。国体に向けた、保護者やコーチ、OBといった多くの方々の協力と情熱が支えとなり、プレーヤーとしての自分を押し上げてくれたように思います。とても感謝しています。これからも熊本の水球には、もっと強くなってほしいと願っています。
― どんな高校生活を。
水球の練習には1回も遅れたことがなかったのですが、学校には遅刻ばかりしていて、恩師の先生からはよく𠮟られていました。今だから言えることですが、その叱られた経験のお陰で気持ちを入れ替えることができ、水球を辞めることなく学校を卒業することができました。友達と何かあるごとに集まってよく遊んでいました。充実した楽しい高校生活でした。
できれば、パリ五輪の後も長期的に日本代表チームの強化に携わっていきたいと思います。国を代表して世界を相手に競い合い、単に試合を戦うだけではなく、各国の代表選手やチームの方々とスポーツを通してつながっていくことは様々な人や文化を知るこができ、自分の視野を広げる貴重な経験になります。何事もポジティブに考え続ける
― 座右の銘は。
「雨降って地固まる」です。何かのトラブルが起こった時でも、それを悪いものと捉えるか、チャンスと捉えるかは自分次第です。今不安や悩みがあっても、時が経つと悩んでいたことがまるで嘘のように、上手くいくものです。大切なことは何事もじっとポジティブに考え続けることです。
― 若者へメッセージをお願いします。
視野を広く持ち、自分らしく生きてもらいたいと思います。日々の生活において協調性も大切かもしれませんが、世界の舞台では自分の考えや思いをしっかり相手に伝えることが必要です。若い皆さんは、世界に羽ばく可能性を秘めています。ですから、自分自身の人間力を高めて、あまり小さい殻の中で生きるのではなく、殻を破って視野を広げ、行きたい道を進んでいってもらいたいと思います。
write M.Ujino