素晴らしい戦績です。12連覇からの3連敗、その原因はなんだったのでしょうか。
田代
ひとつは知らず知らずの内に「常に勝つものだ」と思ってしまっていたのかもしれません。今思えば私自身も油断をしていたところもあったと反省しています。1回勝つことよりそれを継続することがはるかに難しい。また、1度負けると負け癖がついてしまうもので、力のある選手も集まらなくなるという悪循環に陥ってしまいます。
T1park記者
九州学院水泳部の強さの秘密は何でしょうか。 田代 徹底した泳ぎ込みです。高校生であれば大体1日に3000m~4000m位泳ぐと思いますが、私の練習はちょうどその倍くらいです。他校も最近は以前よりも泳ぐ距離を伸ばしているとは思いますが、我々は合宿中であれば1日に3万m位泳ぎます。なにも知らずに入部してきた子たちは面食らうでしょうね。 今の子供たちは何かにつけ「科学的な練習」を求めますが、私が質問するのは「それは泳がないで早くなる練習ですか?」ということ。泳ぎが早くなるには泳ぐ練習をしないといけない。子供たちが言う科学的な練習というのは練習量が減ってなおかつタイムも早くなるものと考えているようですが、それは強い子に適応されるものです。一定の練習量をこなし、力を持っている人が仕上げに質を求めていくというのは理解できますが、基礎的な泳ぐ力を身につけるには量そのものが必要。土台を作るには量です。 |
T1park記者
水泳は体力的にハードな競技だと思いますが、そのうえ他校の倍の距離を泳ぐというのは大変そうですね。 田代 まぁ慣れですよ。人の倍練習したから早くなるかというと必ずしもそうでもないのですが、強いチームというのは人の倍練習しています。九州学院は室内プールを持っており県内でも非常に恵まれた練習環境にあると思います。生徒たちには県で一番いい環境で練習しているのだから県では一番にならないとおかしいというぐらいの気概を持ってほしい。よく言うのはアクアドームのヒーローで終わるなということ。そこで満足してほしくないし、井の中の蛙になってはいけないんです。世の中にはもっと早い人がいるわけで、その人達が早い理由はあなたよりもっと考えているしもっと練習しているんですよね。 |
T1park記者
ハードな練習と学業とのバランスについての考えは。 田代 学生にとって一番大事なのは学業。学校生活がおろそかになるようであれば部活動は休んでもらいます。部員が授業中に居眠りをしている情報が耳に入ればすぐに注意、改善できないようであれば当分練習は禁止します。水泳だけ頑張っているというのは全然だめ。言葉は悪いのですが、スポーツ馬鹿は嫌いなんですよ。当校の場合には特技コースを設置し、学業面でも十分ついていけるように配慮してありますから、そうした環境に感謝しきちんとやっていかないといけない。水泳を頑張りながら勉強もしっかりやる文武両道が理想。成績があがれば戦績もあがるんです。なぜなら頑張りがいがあるから。頑張ったことが結果に出てくると面白いですよね。 |
T1park記者
子供たちのモチベーションの作り方で工夫されていることは。
田代
水泳の実力によってグループ分けをしています。A・B・Cと分けて、自分が今どのレベルにいるのかを本人に自覚させることが大切です。実際リレーメンバーに選ばれるのはAチームに入っている子から選ぶことになりますので、そういう位置付けは曖昧にせず明確にしています。それからうちの特徴として中学校があります。練習では中学生も高校生も関係なくグループ分けしているので中学校1年生でも泳ぎが早ければAチームに入ることができる。もちろん試合に出ることはできませんが、高校生からすると中学生には負けられないわけですからお互い良い刺激になっているみたいですね。
T1park記者
保護者との連携も大事にされているとのことですが。 田代 これもうちの特徴のひとつですね。合宿中はお母さん方に当番制でご飯を作ってもらい全員一緒にご飯を食べる。そうすると自分の子がいかにご飯を食べないかということもお分かりいただけるし、色んな場面で自分の子供の躾についてもお分かりいただける。実際、「あの子はご飯をしっかり食べるから強いんだということが分かりました」という声をいただきますし、お母さんには食事の面で管理をしっかりやっていただきます。そして、お父さんには子供に対する育て方に対して話をさせていただく。本来学校は勉強を教える所であり、躾をする所ではありません。ですからお父さんお母さん方には「家でしっかり躾をしてください。学校ではしっかり勉強をしてください、そしてスポーツも頑張ってください」ということを話します。ここで一番大事なのは「親の背中を見て子供は育っている」ということ。子供は常に親の背中を見ていますから、子供のお手本となってしっかりやられてください、そして他の家庭のお子さんも見てしっかり勉強されてくださいと言います。 T1park記者 部活動を通して生徒も親もあらためて親子関係を学ぶ場となっていますね。 田代 私たちと親御さんとの間にしっかりとした信頼関係がなければ子供たちが伸びることはありません。学校でだけ頑張ればいいわけではなく家庭での過ごし方も大切ですので、しっかり先生の言うことを聞いて頑張ろうとバックアップしてもらうことが欠かせません。 |
T1park記者
指導する上で大事にしていることはなんですか。 田代 本人のやる気です。やる気がない人間には指導することがないんですよね。今の子達を見ているとハングリー精神に欠けているように感じ少し残念です。どうすればもっと速く泳げるかもっと貪欲になってほしい。いつも言っているのは「馬鹿は速くならない」ということ。言葉は悪いですが本当なんです。学習できない子は速くならない。例えば50mを20回泳ぐ練習があるとしてただ漠然と泳ぐのではいけない。1本1本課題を見つけてどう泳ぐか考える。早くなるにはいい泳ぎをしなければいけません。いい泳ぎをするためにストロークの仕方やキックの打ち方を工夫し改善していか |
後は成長の速度をいかに早めるか。誰しも高校3年生になったら最後だからと頑張るのですが、その頑張りを2年生や1年生の時からできていればもっと記録を伸ばせます。基本的に水泳は毎年記録を伸ばすことができます。その成長スピードが早い人が有利です。そのためにはやっぱり心技体を整えること。基本となる体、心の在り様、そして技術を磨くこと。私はその人に一番合った泳ぎが好きなので、あまり泳ぎ方の技術指導はしません。たとえば北島康介選手の泳ぎは素晴らしいですがあれは北島選手が作り上げた彼独自の泳ぎであって誰にでもあてはまるものではない。もちろん基本的なことは教えますが変なことを言ってその子の泳ぎを壊してもいけませんし、この子たちは技術的にどうこうしたから速くなる段階ではなく心技体を整えることで十分伸びます。泳ぎは自分の泳ぎやすいように泳ぐのが1番です。これ(心技体)で十分日本一になれますから。
T1park記者
若者への応援メッセージをお願いします。
田代
私も現在進行形で実践中ですが「一生学習」ですね。子供たちには本当に沢山の事を教えられていますし、保護者からも勉強させてもらっています。長い人生いいことばかりではないし、いいことでないほうが多いかもしれない。しかし、色んな事があってもへこたれず向上心を持って頑張ってほしい。
T1park記者
ありがとうございました。