【プロフィール】
1967(昭和42)年1月15日生まれ、48歳。熊本県宇城市出身。長崎県立島原商業高校-順天堂大学体育学部卒。小学校からサッカーを始めるとすぐに頭角を現し、全国中学生サッカー大会3位、全国高校選手権大会優勝、総理大臣杯優勝、インカレ優勝などの戦績を残す。大学卒業後は当時JSL(日本サッカーリーグ)2部の川崎製鉄(現・J1ヴィッセル神戸)でプレー。4年間、長崎県の国見高校でコーチ(92年から同校教諭)を務め、1995年に熊本国府高校サッカー部監督に就任。99年の全国高校選手権で創部4年目の同校をベスト8に導き、全国高総体に2度、全日本ユース選手権に2度出場した。その後、国見高校で監督を務めた後、2013年から現職。日本サッカー協会公認S級ライセンス。東海大学経営学部経営学科准教授。NPO法人OFFICE ROM理事長。好きな言葉は「記録より記憶に残る人間になれ」 |
若者へのメッセージ
「リスクを恐れずチャレンジ」 |
T1park記者 東海大学熊本サッカー部・東海大学付属熊本星翔高校サッカー部の近況を教えて下さい。
瀧上 大学は、選手80人とスタッフ・マネージャー6人で活動しています。おかげさまで昨シーズンは九州大学リーグ2部で優勝し1部リーグに昇格、今シーズンから新たなステージで戦っていくことになります。高校の方は、先日行われた高校サッカー選手権県大会で決勝戦に進出することができました。部員は約150人とマネージャーが6人です。 それぞれに短期・中期・長期の目標を設定していますが、直近の目標として大学は全国大会出場、高校は夏と冬の全国大会出場とリーグ戦のカテゴリ昇格を目指し頑張っています。 T1park記者 大学は強化2年目、高校は強化3年目と短期間で結果を出されました。瀧上流指導の特徴は。 瀧上 私のトレーニングは短時間集中型で1日のトレーニングは2時間以内、週末の試合は基本的に1人1ゲームです。高校生も大学生も求めるものは変わりません。競技上の目標は設定していますが、あくまでも学校の部活動ですので学生の主は勉強と学校生活。部活動ではできるだけ練習も試合も皆同じように経験させてあげたいというのが我々の考えです。 |
T1park記者 チームが強くなった秘訣は。 瀧上 第一には選手たちが頑張ってくれたこと。そして学園の思いがあります。3年前に校舎のすぐ隣に人工芝グラウンド(約1万2600㎡)を整備するなどハード面を充実していただきました。これはFIFA(国際サッカー連盟)とJFA(公益財団法人日本サッカー協会)公認の素晴らしい設備でそこに魅力を感じて多くの生徒、力のある生徒が来てくれています。またコーチングスタッフの充実などソフト面にも力を入れてもらっています。これらの要素がうまくバランスがとれたからこそ結果もついてきたのではないでしょうか。
私はスポーツには学園の起爆剤としての役割を果たしていく必要があるし、またその力があると考えています。たとえば活気があったり、挨拶が良かったり、掃除を頑張ったり、クラスでリーダーになってくれたりというのがあるから学校全体が盛り上がっていける。ただ強くなった、人が増えたと言っても部活生が授業中に居眠りをしたり、挨拶もしなかったりとなると学校のマイナス要素になってしまう。部には色んな生徒がいますがそれぞれに頑張ってくれているのである程度の評価はしていただいているのかなと感じています。そういう頑張りがないと結果はついてこないと思いますよ。
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T1park記者 沢山の部員がいる中でレギュラーをつかめる生徒とは。
瀧上 「努力は裏切らない」という言葉もありますが、時間を無駄にせずコツコツ努力を重ねた人間が人の上に立っていく。これはスポーツに限らずすべての分野に共通するのではないかと思います。 指導をしていると「この子は将来が楽しみだ」と感じる選手に出会うことがあります。しかし、その期待はけっこう裏切られますね。逆に、体も大きくないしスピードもそれほどないがコツコツ練習して、日常の学校生活や体調管理もしっかりと行き届き、這い上がってくる選手がいる。こういう生徒は強いですね。やはり最後は人間力ですね。 T1park記者 人間力を養うために指導していることは。 瀧上 これといって特別なことはしていませんが、人として大事なことはきちんと指導しています。世界に誇れる日本人の文化として礼儀作法、時間を守ること、清掃活動などが挙げられます。欧米では異なる文化もあるかもしれませんが、日本で生まれたからにはそういう日本の良い文化を教える必要があると思っています。他国に行き文化の違いを対極的に感じることができるのは比較対象となる自国の文化を身につけているからこそ可能なのです。 |
T1park記者 当たり前のことほど教えるのは難しいと思います。教え方のコツは。 瀧上 自分の若い時を振り返ってみると指導者として未熟だったなと思います。情熱だけは持っていましたが指導力も冷静さもなかったのでどのタイミングでどういう言葉をかけるべきか分かっていませんでした。怒鳴り散らすこともあった。しかし、当時私はそれをネガティブにとらえてはいませんでした。なぜならそれは子供たちにとって将来必ず役に立つという信念を持っていたから。私が監督になって現在までブレていないことは子供たちにとってプラスになることはやろうという点です。 今はスタッフに恵まれたこともあり、全体を見渡す余裕ができました。諭すように優しく言って気づく子供もいれば隣の子供に話している内容を聞いて学習できる子供もいる。中には直接言ってもわからない子供や強く言うと逆効果の子供もいます。色んなタイプがいるので非常に難しいのですが、最終的に本人が気づき納得しないと本物になりません。納得をするかどうかで一番大事なのは彼らの活動を指導者がきちんと見ていること。すなわち現場にいないといけないということです。我々は選手全員分の名札を作り、毎日スタッフでグループ分けし、頑張っている選手はちゃんと上のグループに上げようという作業をしています。頑張っていることもいい加減なことをやっているのもちゃんと見ている。指導者は評価をする前によぉく見て観察していないといけないのでそこは大事にしています。ですから子供たちだけで練習することはまずありませんね。 |
T1park記者 それが子供たちのモチベーションにつながると。 瀧上 彼らも言われていることは頭で理解しています。でもそれを素直にしたくないのが高校生。うちは練習時間が2時間と限られているので基本的にボールを使ったトレーニングを重点的にやりますが、いい加減にやっていたらボールを置いてランニングに切り替えます。 それから練習時間が決まっているのでトレーニングに集中し、ある程度の厳しさも我慢できると思うんですよ。2時間というゴールがあるから。我々が現役の時はゴールがなく、練習は朝8時に集まって夕方5時になっても監督の機嫌が悪ければいつまでやるか分からなかった。そうするとどうなるかというと選手はきついフリをしたり、このままだと終わらないから誰か倒れろよと言い出したりと変な知恵がつく。 |
T1park記者 区切りがなければ人間は頑張れないと。 瀧上 以前は世の中もサッカーも環境が違いましたからね。昔は勝ち抜き戦で午前中勝てば午後にもう1試合戦うという状況でしたので練習で量をこなし、理不尽なことに耐性をつけておかないと勝てなかった。今は1日1試合のリーグ戦なのでゲームの質を求めていかないといけない。 しかし、昔ながらのものでもいいものは沢山あるんです。逆に昔の方がいいという場合も多い。武道に「守破離」という言葉があって、人が成長していくステップとして、「守」るべき基本原則があり、自分の師の殻を「破」り、そして最後は恩師から「離」れ独立する、という趣旨の考え方があります。いいものは昔のものでもどんどん伝えていかなければいけないし、それに時代に合った新しいものをプラスしていかないといけないかなと思います。 子供たちには日本だけでなくグローバルな視点で活躍してもらいたいと思っています。そのためには生活スタイルも文化もまるっきり違う人達とディスカッションしていかないといけない。部内にも色んなタイプの人間がいるので部活動の中でそうした経験をして将来に活かしてほしいですね。 |
T1park記者 サッカーを通して学べる点ですね。 瀧上 自己主張をすることはこれまで日本人にかけていたこと、しかしそれだけでなく相手を思いやることをチームの中でやっていく。目的を共有し、お互いを理解しているからこそやりたいことをすりあわせていける。それによってチーム力は足し算だけでなく、ある時には掛け算になって大きくなっていく。サッカーはその瞬間瞬間で判断していかなければいけませんがその判断は仲間あってのもの。ボールが一個しかない中で仲間とどういう画を描いていくか。サッカーではリスペクトという言葉を使いますが他を尊重する気持ちを持つ。そういう器を持っていないといけません。たとえ自分にきびしい態度をとる相手であってもその人のいい所を見つける努力をする。すぐに実践できるかは別としてそれぞれどこかのタイミングで理解してくれたらいいかなと思います。 |
T1park記者 若者へ応援メッセージをお願いします。
瀧上 リスクを恐れず色んなことにチャレンジしてほしい。私は常にリスク犯しっぱなしの人生ですからね。笑い。リスクを恐れチャレンジできなくなると物事を対極的に見れなくなってしまう。リスクを犯して前進したからこそ元いた環境の良さも悪さもわかる。別の環境に出て行く決断力を持つことですね。これができないと烏合の衆になってしまい、組織の中で愚痴しかこぼさない人間になる。逆に言えばそれだけ腹をくくれる人間は何でもできるもの。 海外にも行ける環境、サポートがあればどんどん行った方がいいと思いますね。周りが色々言うより本人が直接行って感じるのが一番。私がバルセロナに行って感じることと別の人がバルセロナに行って感じることは全く違うと思うし、そういう実体験はその人の財産として蓄積されていきます。 T1park記者 ありがとうございました。 |