T1 park 記者
指導する上で大事にしていることはなんですか。 禿監督 私はスポーツは3つに分けられると考えています。まずひとつはチャンピオンスポーツといってプロ野球やプロサッカー、駅伝だと実業団のように結果を評価されるもの、どれだけ努力しても結果が出なければ評価の対象にならないものです。その対局にあるのがウォーキングやゴルフなど健康目的や趣味の分野のヘルシースポーツ。そして我々がやっているエデュケーションスポーツ(教育的スポーツ)と呼んでいるものです。 学校教育活動の中の部活動という位置付けにおいて何を一番求めなければいけないか、それは「プロセス」です。たとえば山を登るとして、同じ山でも阿蘇山より富士山に登る方が道も険しく、周到な準備も必要で難易度も高くなりますが、その高い目標に向かって一歩ずつ歩いていく過程を経験させることによって、ただ学校で教室に座って勉強するだけじゃ得られないものがあります。途中では嵐にあったり、突風が吹いたり、色んな事がありますが、我慢強さや向上心、闘争心、仲間との協調性など色んなことを勉強しながらその道のりを歩いていくわけです。負けるより勝った方がいいけれど、勝ったことによって得るものじゃなくて勝つことを目標に頑張っていく中で得るものが高校スポーツの一番大事なポイントではないでしょうか。この思春期の真っただ中に何かの縁があって私の前に来た子供たちにはそうした心の財産というか人間力というかそういうものを身につけて次のステージに送り出してあげたい。そういう気持ちで毎日やっています。 |
T1 park 記者
部訓や部のモットーはありますか。 禿監督 学校には校訓や教育目標があるのでこれがベースになります。九州学院の校訓は天を敬い人を愛す「敬天愛人」。宇宙の真理や物事の真実を敬って、自己中心的な考えではなく自分以外の者に対する愛の気持ちを持つこと、これが敬天愛人です。そして「自分で自分を監督し、世の中に役に立つ善人となれ」というのが当校の教育目標です。自分で自分を監督するとは自立するということ。日本は戦後70年余りが経ち、自由主義が拡大解釈あるいは間違った解釈をされ非常に依存心の高い社会になっています。その中で自立をするということは非常に重要。自分はもちろん自分以外の者に対する思いやりを持ち世の中の役に立つ人間になれという解釈の下、子供たちにはそのために今頑張っているんだよということを基本的な考えとして伝えています。 |
T1 park 記者
3年間ですごく成長する子にはどのような特徴がありますか。 禿監督 身体的資質は無いよりあった方がいい。しかし、身体的資質だけでは限界があります。やはり心の資質というか内面的な資質がないといけません。身体的資質は生を受けた段階で差が出てくるものですが、精神的資質というのは経験や学習によって伸ばしていくことができる。様々な環境で育ってきた子供たちの15年間の癖直しをいかにできるか。そうした精神面の指導は身体的指導を上回る重要な部分だと思います。 卒業生の末續慎吾は100m・200mのスプリント種目で世界陸上、オリンピックという世界最高峰の大会で日本人として初めてメダルを獲った選手なのですが、彼が人よりも抜群に身体的資質があったかというと私が指導した中でもトップではありません。そんな選手がどうしてそこまでいったか。それはやはり内面の強さであり奥深さというものが養われており、結果として記録を残すことができたのだと思います。 内面的な資質を高めるには何が必要か。部活の練習は24時間のうち4時間位しかしていないので学校生活を含めた残りの20時間こそが本当のトレーニングだと思います。決まったことをきちんとやる、人が嫌がるようなことでもできる、陰日向がない、そういった部分の指導が必要だと考えています。 |
T1 park 記者
末續選手の学生時代の印象は。 禿監督 彼は普通であれば兼ね備えない、両極にある性格を持っていました。 大雑把に言うと強くなる選手というのは自己中心的で負けず嫌いの我が道を行くタイプが多く、逆に人に心遣いができるような繊細な子は勝負の面では弱いという傾向があります。末續の場合はこの二つを非常に高いレベルで持っていました。見かけのまじめさや表面的なやさしさではなく本当の意味で人に気遣いができたり、人の気持ちを汲んでやれる心の大きさを持ち、練習や勝負の場面では入るほど自分を追い込むことができる。これは末續が一番ですね。箱根駅伝を走った青山学院大学の久保田もこのタイプでした。強くなっていく選手というのはそういう部分を持っているようですね。 |
T1 park 記者
たくさんの生徒を見てきたからこそ今の生徒に伝えたいことは。 禿監督 競技は確かに人との競争ではあるけれども突き詰めれば自分自身との戦いであるということ。練習も勝ち負けじゃなくていかに昨日の自分を超えられるか。その連続なんですよ。人生がそういうものだろうと思うんです。だからあえて生徒にはとにかく勝ち負けにはこだわらないとだめだと言っています。参加することに意義がある、それでは本来教えたいことが身につかないのです。 子供たちはいずれ世の中に出て、仕事をして、結婚し、家庭ができて、子供ができる。一家の大黒柱として頑張っていかないといけません。その時に本当に幸せな人生を送るために、勝負にこだわる厳しさの中で教えたいことがあります。社会に出たら色んな社会の矛盾とか社会の荒波にもまれる厳しさを味わっていく。そして振り返った時に高校時代に陸上競技にあれだけ打ち込み先生に怒られながらあの苦しいことをやったんだという経験がある、それが将来自信になる。この3年間やったことは、今は気づかないかもしれないが5年後、10年後、20年後、30年後に必ず自信になります。 |
T1 park 記者
若者へ応援メッセージをお願いします。 禿監督 人と競争する必要はないけれど常に自分自身と競争すること。そのためには目標がないと頑張れないのでスポーツでも勉強でもなんでもいいから具体的な目標を持ち貴重な3年間を無駄にしないように。朝起きて、学校に来て、面白おかしく学校生活を送って、帰宅後は自分の楽しいことだけをする、そういう3年間では知識としての学問は身につくかもしれませんが本当に身に付くものというのは少ないと思います。私は陸上部の保護者会で3年間を千日修行と思ってやらせますと言いますがそういう気持ちを持ってやってもらいたいですね。 「ヒト」という生物として生まれた我々が「人間」になるためには自分を磨く努力を死ぬまで忘れてしまってはだめだと思います。どれだけ長く生きたかではなくていかに充実した人生を送ったかというのが最終的な目標ですから、子供たちには自分の道をしっかり歩んできたと胸を張れる人生を送ってもらいたいと思います。環境と自分の気持ち次第で本当にどうにでもなるんですよ。 それから、「続ける」ことはとても大事。私は毎日4時に起きて5時半には学校にきているのですが、始業前の8時まで練習ですので生徒の練習を見ながら2時間ほど自分のトレーニングを続けています。子供たちに私がウォーキングや筋トレをする姿を見せればただ椅子に座って見ているだけより刺激になるんじゃないかと思い10数年続けている習慣です。正直きついと思う時もありますが、決めたことですからきちんとやろうと思い続けています。たまに回数減らしたりすることはありますけどね。笑。 T1 park 記者 ありがとうございました。
Writer T. Nakahara
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